Q 従業員への貸付金の残額を退職金から全額控除できますか。 | SUPPORT SOURCING

Q 従業員への貸付金の残額を退職金から全額控除できますか。

Q 従業員への貸付金の残額を退職金から全額控除できますか。


 労働基準法第24条は、「賃金は、その全額を支払わなければならない」として、全額払いの原則を示しています。この賃金には退職金も含まれると解されます。したがって、退職金から控除して支払うことは原則禁止です。しかし、所得税など法令にもとづくもの、労使協定で定める項目については控除できます。したがって、まず貸付金の残額を退職金から控除する趣旨の協定を結ぶ必要があります。

 ところで、控除する額には限度はないのでしょうか。労働基準法第24条は、「控除して支払うことができる」とだけしており、控除限度額は設けていません。したがって、「控除される金額が賃金額の一部である限り、控除額についての限度はない」とされています。

 ところが、民事執行法第152条は、毎月の賃金や賞与については、その額の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額、現在21万円を超えるときは当該額)について差し押さえを禁じ、退職金については4分の3に相当する部分について差し押さえを禁じています。さらに、民法第510条は「債権が差し押さえを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」としています。この場合、債権は賃金であり、債務者は使用者、債権者は労働者なので、使用者は労働者に対し相殺することはできないとなります。

 したがって、例えば、退職金が1000万円で、貸付金残高が600万とすると、
1000万円×1/4=250万円
については相殺できますが、残りの4分の3である750万円は労働者に支払わなければならないことになります。750万円支払ってから残りの貸付金350万円を回収することになります。

 以上は、控除が「相殺」することにより行われる場合です。相殺は、債務者が債権者に対して債権を有する場合に、債権と債務を消滅させる意思表示です。それは、単独行為として相手方の承諾の有無に関係なく一方的な意思表示となります。

 とすると、一方的な意思表示でなく、両者合意の下に契約して差し引き計算することは、上記の「相殺」に該当しないことになります。上記で述べた民法上禁止している趣旨は、債権者の意思に反する債権の消滅を禁ずるものであるのですから債権者自ら契約によって相殺することは妨げないことになります。

 また、労働基準法第17条は「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とありますが、これも、貸付金が労働することを条件とする前貸の債権に該当しない限り、第17条には抵触しません。

 以上から、労使協定に「貸付金の残額を退職金から控除する」旨の項目があり、かつ、「当事者と契約」を結んで相殺すれば、支払額の4分の1を超えて控除しても差し支えないことになります。