庭、壁、そして屋根にまで眼を配り、徹底的に痕跡を探す。
夏の最中、特に屋根に登り痕跡を探す鑑識班は、自らの汗が乾燥して出来た塩によって、ただの帽子を純白の王冠に変貌させている。その中、室田そして岩崎も屋根にあがり、ヨシさんが『狼男』と『フードの男』を隠れて見ていたという電柱を見下ろしていた。
わずかでも良い、少しでも手掛かりがあれば・・・。だが、遭遇した当日は雨が降っていた。証拠となりそうな物も流されている可能性が高い。
どうしても不安が頭をよぎる。
「大丈夫、何かでるさ。」
視線を手元から外さず、作業をしながら世田谷署刑事課鑑識係の木ノ下が、二人の心境を察したかの様に語りかけた。
「ベテランの勘、ですか?」
「違うよ岩崎。
生きてる物は必ず痕跡を残す。痕跡を残さず生きていける物は存在しないんだ。」
「・・・。じゃあ、痕跡が無い場合は・・・。」
「存在しない物ということになるな。」
黙々と作業を続けながら木ノ下はさらりと言ってのける。
自分の作業が無駄になるかも知れないに、こんな事を平然と言うなんてどういう心境なのか。
岩崎は驚きに似た感情を覚える。
「存在しない物だということが分かれば、証言がホラだった事が分かる。
それだけでも違う。」
室田がそう言うと、木ノ下はただ口元を上げて答えた。
その時である。
道の向い側、飲食店を一階に構えるアパートの屋根から、若い鑑識官の声が上がった。
「在った!在りました!!
出来たばかりの靴の跡です!
デカイっすよ!」
その靴の跡が『狼男』の物と限ったわけでは無い。
だが室田は、夏の日差しとは違う熱気が身体をめぐるのを止める事は出来なかった。