『官僚連続殺害事件』。この半年の間、一日もTVで流れなかったことのない事件である。
ことのきっかけは新年が明けて間もない1月9日。防衛省内部部局の倉田義人が自宅で殺害された。
その後、外務省の岩下良男が宿泊していたホテルで殺害され、その後防衛省と外務省の官僚が次々と殺害されている。
今回の幸田を含めると、8名が望まずして退官をする羽目となっていた。
どの事件も、被害者は壮絶な拷問を受けていること。
そして犯行後、犯人自身から警察に通報が入ることが共通している。
最初に殺害された倉田の事件の管轄が世田谷署管内だったため、捜査本部はそのまま世田谷署となっていた。
担当者は各自報告を行う。
警視庁捜査一課の木戸管理官はここ数日剃っていない不精髭をさすりながら報告をうけている。
「ホシは害者宅近くにある桜木駐在所に犯行を知らせるメモを用意した石に包み、投げ込むことで犯行を知らせています。
一緒にいた害者の家族は一階のリビングに縛られて動けないようにされていただけで、他に直接的な被害は受けていません。」
「手掛かりは?」
「手紙にも、石にも指紋などの手掛かりはありませんでした・・・。」
「もういい。次!」
報告をしていた所轄の山下は50を超えるベテランだ。管理官とは言え年下の小僧ににべもなく報告を打ち切られるのは気分が悪いはずだが、この捜査本部が設置されて以来、大きな進展もなく同じ様な報告重ねている事実もあり素直に席に着く。
鑑識に張り付いていた世田谷署の大野が報告する。
「今回犯人が行った拷問ですが、かつて古代の中国で行われていた凌遅という処刑だと思われます。」
「凌遅?」
「はい。凌遅は複数の村人が処刑執行に参加したようですが、罪人を動かないように縛りつけて鋭利な刃物で身体を少しずつ切り取っていく方法は同じです。」
「害者は始めに瞼を切り取られていたからな。自分の身体が切り取られて行く様子を見続なきゃならなかったのか・・・。
よし、近隣の華僑や大陸系の住人への聞き込みを強化しろ。くれぐれも変な難癖を付けられないように気をつけろよ。」
「了解です。」
「さて、害者の家族の証言はどうだ。」
警視庁捜査一課の室田班に所属する女刑事である杉浦が立ち上がる。
同じ女性ということで、家族の証言も聞き出しやすいと配慮された人選である。
「害者の妻からはショックの為に証言はとれませんでしたが、娘からは聞き出せました。
当日の夜自室のベットで横になっていたところ、突然部屋が暗くなり、驚いて起き上ったら後ろからものすごい力で口を塞がれあっという間にロープで縛られたそうです。
暗かったことと、あまりに唐突だったこと、そしてリビングに運ばれるまで目隠しをされていたので犯人の顔は全く見えなかったようです。」
「?リビングまで?ではリビングに着いたら目隠しは外されたのか?」
木戸は報告した杉浦に問いかける。
「はい。その段階ですでに母親もリビングに縛られた状態でいたそうです。
リビングも暗く、ホシはフードをかぶっていた為そこでも顔は確認できなかったそうです。」
「ホシの印象は?」
「落ち着いた、安心したと言っています。」
「・・・。」
捜査本部にいただれもが一瞬息を飲んだ。
肉親を殺した相手に向かって安心?どういう心境なのだろうか。
「娘自身も当惑していますが、あえて心境を話すなら安心したとしか言えないそうです。
その時の状況は・・・。」
杉浦はあえて事務的に伝えるように意識しながら、害者の娘から聞き出した当時の状況を説明し始めた。