仕事をしたら“静電気とゴミ”がなくなった:
カシオの時計はどこでつくられているのかご存じだろうか。答えは山形、タイ、中国(2拠点)の4拠点だ。中でも山形カシオは、高級モデルを製造する“マザー工場”の役割を担っている。
国内唯一の製造拠点で、時計はどのようにして作られているのか? 山形新幹線の停車駅「さくらんぼ東根」駅から、クルマで5分ほどのところにある山形カシオ。そこでG-SHOCKなどを担当している、時計技術部の後藤正史部長に話を聞いた。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。
●静電気とゴミは大敵
後藤:ドイさん、質問です。山形工場内では湿度を45~60%に設定していますが、なぜでしょう?
土肥:い、いきなり質問ですか。うーん、何だろう。
後藤:湿度が45%以下になれば、静電気がたまりやすいんですよ。時計には繊細な部品がたくさん使われているのですが、それらの部品は静電気に弱い。工場内では湿度管理だけでなく、スタッフは静電気をためにくい専用のスリッパをはいて作業をしています。
また湿度が60%以上になれば、時計のプラスチックのケースが曇ることがあるんですね。これもダメ。
土肥:時計というのは、やっぱり厳しい条件の下でつくられているんですね。私も工場見学をさせてもらおうと思っているのですが、その専用スリッパをはかないとダメですか?
後藤:もちろんです。工場内に静電気をもって入れば、そこにゴミやホコリが吸い寄せられてしまうんですよ。時計づくりは「静電気とゴミをいかに取り除くか」――この戦いを繰り返してきた、といっても過言ではありません。
土肥:時計づくりにおいて、静電気とゴミは“大敵”というわけですね。
後藤:部品はダンボールに梱包されて届きますが、そのまま工場のラインには入れません。ゴミが付着しているかもしれませんので、すべての部品を洗浄しています。
特に精密な部分を扱うところでは、床に穴を開けています。
土肥:ほー。床の穴にゴミを落とす、ということですか?
後藤:そうです。またスタッフは防塵服を着用しますが、これも各自が洗うのではなく、すべて専門業者に洗たくをお願いしています。
人間の目で見えるゴミというのは、0.2ミリほど。見えるゴミはもちろんですが、見えないゴミも減らさなければいけません。ゴミがあれば、それはどういったゴミなのか? 顕微鏡でチェックしなければいけません。ゴミの成分を分析して、そのゴミがどこから入ってきたのかを突き止める。これをしなければゴミを減らすことができないんですよ。
福島第一原発の事故を受け、今では放射性物質がないかどうかもチェックしています。
土肥:なるほど。では、そろそろ工場内を見せていただけますか?
後藤:分かりました。今回は7月末に発売される、G-SHOCKの「GW-A1000」という時計をつくっていますので、それをご紹介しますね。
では防塵服を着て、専用のスリッパを着用してください。口を酸っぱくして言いますが、時計づくりにおいて「静電気とゴミは大敵」ですので。
土肥:分かりました。
●人間の感性に頼る部分も
後藤:カシオの時計といえば、どの時計を想像しますか? このように質問すると、多くの人から「G-SHOCK」という答えをいただきます。この製造ラインでG-SHOCKがつくられているのですが、私たちはG-SHOCKブランドを守らなければいけません。不良品を出さないためにも、なにか嫌な兆候があれば先手を打つようにしています。
土肥:静電気とゴミをできるだけ取り除くようにしたのが、このラインなのですね。
後藤:G-SHOCKが誕生してから、来年で30周年。この間、試行錯誤しながらできたのが、今のラインですね。
後藤:山形カシオには最新の機械が導入されています。できる限りオートメーション化を図っていますが、機械だけでは限界があるんですよ。そこは人間の感性に頼らざるを得ません。
例えば、時計の針のズレを検知するために、LEDの光をつかいます。時間・分・秒針をつかさどる3つの歯車に直径300ミクロンの検知穴があるのですが、そこにLEDの光をあてます。その光が下まで届かなければ、どこかの歯車がズレているということ。2枚の穴までは機械でも認識できるのですが、3枚目は人間の目でチェックしなければいけません。
●違った視点で時計を見る
土肥:想像以上に細かい部品がたくさんありますね。このワッシャーの厚みはどのくらいなのですか?
後藤:1000分の10ミリ程度ですね。
土肥:時計には精密な部品がたくさんありますが、ここで働くにはどのようなタイプの人が向いているのでしょうか?
後藤:「この性格の人が向いている!」というのはないと思います。いろいろなタイプの人がいれば、違った視点で時計を見ることができる。そうすれば、結果的に、いい時計ができるのではないでしょうか。
よく「手先が器用な人のほうがいいのでは?」といった声を聞くのですが、必ずしもそうではありません。時計をつくるには細かい注意点があるので、そこを見逃してはいけません。たくさんある注意点を守って、それを他人に伝えなければいけない。なのでコミュニケーション力が必要になってくるでしょうね。
この山形カシオでやってきたノウハウは、海外にも伝えなければいけません。日本人だけでなく、中国やタイで働いている人にも分かるように伝えなければいけないので、そういう意味での気配りが必要でしょうね。
●熟練工が調整
土肥:針がつくと、時計らしくなってきましたね。
後藤:横にCCDカメラを設置して、3つの針の高さを調整しなければいけません。針と針の間の隙間の部分はとても狭いので、熟練工が調整しています。
こちらのモニター画面では針の動きが映し出されています。複数の針の位置がちゃんと合っているのかどうか、を機械の目が自動判定してくれるんですよ。
土肥:カシオの時計といえば「エレクトロニクスの技術力が高い」といったイメージがありますが、こうした作業を見てみると、昔ながらの時計屋さんを見ている感じがしますね。
●新興国でもG-SHOCKが広がりつつある
土肥:後藤さんはG-SHOCKとともに人生を歩んでこられたわけですが、初めてG-SHOCKを見たときにはどのような印象をもたれましたか?
後藤:正直に言えば、ここまで売れるとは思いませんでした。
土肥:意外な答えが返ってきましたね(笑)。
後藤:社内でも「これ、本当に売れるの?」といった声はありました。当時の時計の流行は、薄型。しかしG-SHOCKは時代の流れに逆行するかのように、厚かった。
先ほども申し上げましたが、カシオの時計といえば? と聞くと、多くの人から「G-SHOCK」という答えをいただきます。カシオでは「OCEANUS」や「PROTREK」などの時計も生産していますが、残念ながらこれらの時計の名前を挙げても「聞いたことはあるけど、どんな時計なのか思い出せない」と答える人が少なくありません。
またG-SHOCKは海外でもよく見かけるようになりました。昔、中国で販売したところ「なぜ、プラスチックの時計を売るの?」といった質問をされました。新興国では「時計=メタルなもの」をイメージする人が多いのですが、若者を中心にG-SHOCKが広がりつつあります。まだまだ「プラスチックの時計=安い」といったイメージがあるのですが、そうした考えをしている人も少なくなってきているのではないでしょうか。
●照明の明るさを統一
後藤:ドイさん、山形カシオの案内もそろそろ終わりに近づいてきました。
時計本体が仕上がると、検査を繰り返します。まずは防水検査。気圧による検査を行い、その後は実際に水没させて、さらに水圧をかけてチェックしていきますね。
ちなみに検査の工程では、ある工夫がされているんですよ。分かりますか?
土肥:ん、なんだろう?
後藤:実は、照明の明るさを統一しているんですよ。明るさが違ってくると、時計の見え方が違ってきますよね。なので時計から何センチのところに照明を置いて……その角度はこれくらいで……といった形で決めているんですよ。
土肥:なるほど。
後藤:さて、最後は完成品の検査ですね。商品を出荷する前に、最終的な検査をここで行います。外装部に不具合はないか? バンドに問題はないか? いろいろなところをチェックして、問題がなければ“合格”ですね。
土肥:ここに並んでいるのは、できたてほやほやですね。記念にココで購入することはできますか?
後藤:残念ながらできません。お近くの時計ショップなどでお買い求めください(笑)。