そのころ、

私は同じく大学の近くに住んでいた友人Sに

かなり依存していた。

 

Sは不思議な魅力がある人で

男からも女からもモテていた。

 

私は家を出る前、

彼の家によく転がり込んで

柔軟剤の匂いがする彼のベッドの上で

朝までぼんやりしながら過ごしていた。

彼はいつもchris brownの『with you』をyoutubeで流していた。

 

彼が好きな人が好きな歌だと言って。

 

Sもとても悩んでいて

不安定だった。

私たちは互いに優しくするわけでもなく

むしろその反対だったけれど

 

ただ私は彼の心の端っこに

ドロドロの自分を受け入れてもらえているということだけが救いだった。

 

あまりに彼に依存していたから

彼に恋しているのか?と

自分に問いかけることもあったけれど

答えはいつもNO―-

ただ、そのときの私には

誰よりも彼が必要だった。

 

Sの散らかった狭い部屋は、カラカラに乾いた砂漠のなかにある

毒を含んだ湖だった。

 

あのころ

Sに、4月になってもらった年賀状に書かれていた言葉を、

私はその後の人生で度々思い返した。

 

 

『自分は幸せになってもいいと信じて下さい――』

 

 

私は全く信じられなかった。

たぶん、その言葉を初めて読んだとき

その意味すら分からなかったかもしれない。

 

むしろ孤独にさえなった。

幸せになるのは、私ひとりの責任だということは

そのころの私には切り捨てられるような苦しさだった。

 

それでも、

彼の言葉は私の心にしみわたり

きっとそれは、これから先も永遠に刻まれている。

 

 

リボンつづくリボン