シカゴを焼いたのは、本当に牛だったのか

1871年、シカゴで史上最大級の都市火災が起きました。

 

約18,000棟が焼失し、300人近くが亡くなったとされています。

 

そして、この大火には有名な話があります。

 

「オレアリー夫人の牛が納屋のランプを蹴飛ばした。

 

それが火災の原因だった」

 

という話です。

 

ところが、実際には牛が原因だったという確かな証拠はありません。

 

当時のシカゴには、長く続いた乾燥、強風、木造建築の多い街、

 

十分とはいえなかった防火体制など、火災が大災害になる条件が揃っていました。

 

つまり問題は、一頭の牛ではなく、小さな火が大火災になってしまう街そのものにあったのです。

 

それでも人々は、「牛が悪かった」という分かりやすい物語を選びました。

 

考えてみれば、これは現代でもよくあります。

 

システム障害が起きれば「担当者のミス」。

 

会社が傾けば「社長の判断ミス」。

 

事故が起きれば「運転手の不注意」。

 

もちろん、それらが原因の一つであることはあります。

 

でも、本当に重要なのは、

 

「なぜ、その小さなミスが取り返しのつかない事故になったのか?」

 

ということではないでしょうか。

 

そして今、私たちの目の前にも「オレアリー夫人の牛」が現れました。

 

タイムズカーでは、外部からの不正アクセスによって、

 

約660万件の会員情報が第三者に取得されたことが確認されました。

 

さらに約160万件では、運転免許証などの本人確認書類の画像も取得されたことが公表されています。

 

今回、最初の火種となったのは、外部からの不正アクセスです。

 

150年前、牛がランプを蹴飛ばした。

 

今度は、第三者がコンピューターに侵入した。

 

どちらも、最初の火種です。

 

しかし、タイムズカーでは現在も、なぜ侵入されたのか、

 

そしてなぜこれほど大量の情報が取得されたのかについて調査が続いています。

 

だからこそ考えたい。

 

「誰が火をつけたのか」だけで、本当に十分なのか?

 

シカゴでは、街が燃えやすかった。

 

現代では、社会が「つながりすぎている」。

 

そして、これからAIがさらに社会の中に入り込んでいけば、

 

AI自身が意図せず「火種」になる可能性もあります。

 

150年前は牛を疑った。

 

今はハッカーを疑う。

 

そして次は、AIを疑うのかもしれない。

 

でも、本当に見直すべきなのは――

 

牛でも、ハッカーでも、AIでもない。

 

 

「一つの小さな火種で、社会全体が燃えてしまう仕組み」を、私たち自身が作っていないか。