男はブログを書いていた。
毎日ではない。
毎日書く人間ほど、
だいたい他にやることがないからだ。
そこへ、
やけに事情通そうな男が現れた。
「君は、何のために書いている?」
男は肩をすくめた。
「分かりません。
ただ、書かないと頭の中が散らかるんです」
「それで金になるのかね?」
「今のところ、
コーヒー一杯分にもなりません」
事情通の男は満足そうにうなずいた。
「それは健全だ。
金になる文章の九割は、
読む側の時間を無駄にする」
男は笑った。
「じゃあ、
これは無駄じゃないですか?」
「もちろん無駄だ。
だが――」
男は少し間を置いた。
「無駄だと分かってやることだけが、
人を少し賢くする」
事情通の男は、
いつの間にか男の席に座っていた。
男のほうは、
立ったままそれを眺めていた。
どちらが書き手で、
どちらが読者なのかは、
もう大した問題ではなかった。
毎日ではないが、200回書いた。
成功のためでも、
立派になるためでもない。
ただ、
考えが固まったままになるのが
我慢ならなかっただけだ。
この理由が一番信用できると、
男は思っている。