独裁者だから、気になるのか? | 「アジアの放浪者」のブログ

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7月23日に、カンボジア下院総選挙がありました。

任期は5年。議席数は125。

 

前回2018年の総選挙では、カンボジアの独裁者フン・セン首相が見事に最大野党を解散させ、125議席すべてを独占しました。

今回の選挙でも、躍進が期待されていた有力野党が「書類手続きの不備」を理由に選挙に参加できず。そのため野党指導者が「選挙のボイコット」を訴えましたが、フン・セン首相は法を改正し、選挙のボイコットを人々に呼び掛ける人には罰金刑、投票しなかった人には5年間の被選挙権停止など、強硬策を打ち出して野党の動きを粉砕してきました。

 

そして迎えた23日。

政府系メディアは、「総選挙が国民の大いなる支持の下、成功裏に終了した」と報じていますが、はてさて事実はどうだったのか。いかに独裁政府といえども、表面上の態度は監視できるにしても、人々の心までは統制できません。フン・セン首相だって、有力野党を大きな脅威と捉えたからこそ、総選挙に参加できないように画策したはずです。

 

独裁者だからこそ、いや、人々の心の中まで見通せないからこそ、国民からの「圧」を感じるのかも知れません。そしてその気がかりが、政府系メディアにも反映しています。

 

まず、投票率。

2018年は83%でしたが、今回は84%と、前回を1%上回りました。この1%に、私はフン・セン首相の危機感を見出しています。「野党側は投票ボイコットを訴えていたけれど、前回より上昇したぞ」と示したわけですが、その盛り方が1%とは、実に謙虚です。本音ではきっと大幅にアップさせたかったのでしょうけれど、前回かなり盛ってしまったので、今回は微増にせざるを得なかった、さもないと全体がさらに嘘っぽく見えてしまう、ということでしょう。

 

そして、議席数。

2018年は、与党人民党が全議席を掌握しました。ところが今回は、与党は120議席程度を獲得。残り5議席は、野党(とはいっても、フン・セン首相と大きく敵対していない小政党)が得られるようです。カンボジアの総選挙は、実質的にシナリオありの出来レースですから、フン・セン首相が5議席を野党に譲ったということは、国民への懐柔を試みたと見えなくもありません。ここにもフン・セン首相の危機感が表れているのではないか、と思っています。

 

知人のカンボジア人は、「この選挙のあと、フン・セン首相は首相の座を長男に譲るつもりだ。そのため次回2028年の総選挙こそ、民主派にとってチャンスだ」と話していました。ほんとうにそうなるか、私はフン・セン首相のしたたかさを過小評価したくありません。でも、5年後に夢を持てるのであれば、それはひょっとしたら、今の日本より恵まれた環境ではないのか、という気がします。

 

下の写真はフン・セン首相。

良くも悪しくも、カンボジアの近代史はこの人抜きでは語れません。