源 義経 (その二) (小説部屋投稿小説) | ******研修医MASAYA******

源 義経 (その二) (小説部屋投稿小説)

不思議な銀色の玉の力を得た牛若は、その後、僧兵たちの厳しい武術修行にも苦もなくついていけるようになり、ひと月もも経たないうちに、もはや牛若にかなう僧兵は居なくなってしまった。
僧兵達も、牛若のめざましい成長にただ驚くばかりであった。
牛若はこの不思議な玉のことは誰にも話さず秘密にしていた。


十六歳になった牛若は、平清盛の所にいる母常磐御前の様子と平氏の動きを知るために京の町に出ることを決意し、鞍馬寺の東光坊阿闇梨の許しを得て鞍馬山から京の町に下りた。
牛若は、大きな袖のうす紅色の水干、薄紫のササリンドウの模様を染め抜いた袴、さらに薄絹を被り姿で、腰には東光坊阿闇梨から頂いた刀を差した。

町中には、平氏に背く者を見付けては密告する禿童(かぶろ)がそこかしこで見張っているので、昼間は人混みに紛れるように、夜は真夜中過ぎ人の姿のない時を選んで出かけた。
京の都には、大男が明け方まだ暗いうちに刀強盗が出没する噂が流れていた。
その噂話を耳にした牛若は、ひと目見てみたいと思い、明け方まだ暗いうちに五条大橋を静かに笛を奏でながら歩いていた。


望月がまだ西の空に明るく輝いている。
月明かりの下、噂どおり橋の上で長刀(なぎなた)持つ僧兵姿の大男の姿が見える。
近づくと、顔は頬髭で毛むくじゃらで、身のたけは一丈もあろうかと思われる大男。
その横を、何食わぬ顔をして通り抜けようとすると、牛若の腰にある月明かりに照らされ輝いている立派な刀に目を止めた。
「小僧!おぬしの持つ刀を置いてゆけ。さもなくばここを通すわけにはゆかぬ!」
牛若が男を無視して通り抜けようとすると、牛若の胴をめがけて轟音と共に長刀を振り払った。
寸前のところでひらりと宙に舞い、大橋の欄干に舞い降り立った牛若は、再び笛を口に当て静かな曲を奏した。
笛の音は、大男の心だけでなく体さえも釘付けにした。
暫くして我に返った大男は、何度も牛若めがけて大長刀を振り下ろす。
そのたびに、牛若はふわりと舞っては欄干に降り立つ。
一刻ほど続くと、さすがの大男も息が切れてきた。
長刀の手を休めたその瞬間、牛若は、大男の持つ長刀の柄の上に降り立ち、右手に持った扇子で大男の額に一撃を与えた。
一瞬の出来事に、大男は体が動かなくなり、その場に座り込んでしまった。
千本にあと一本のところで悲願成就ならなかった大男は、泣きながら家来にしてくれるよう牛若に懇願した。男の名は「武蔵坊弁慶」。


武蔵坊弁慶は、自分の強さに自惚れていて、藤原秀衡が名馬千匹鎧千匹持っていたことにあやかり、自分は名刀を千振り持ちたいと思いたったが、お金を持っていないので太刀強盗で千振り集めることにして、夜な夜な京の町中を歩き刀を集めていた。
後一本で千本になるという夜、弁慶は五条の天神にお参りし、立派な刀が手にはいるよう願をかけた。そして五条大橋で待っていた。


こうして、牛若は弁慶を家来にして諸国行脚の旅に出た。