4) 生い立ち | ******研修医MASAYA******

4) 生い立ち

私の生まれは都市圏から少し離れたA市。
高校は公立高校の中では全国でも大学進学率の高いA高校。
私の親は職人で、学歴も家柄もなく、おまけに裕福でもない。
ボサボサ頭で安物の眼鏡をかけ、真面目に勉強していたので成績だけは割と良かった。
高三の同級生に病院のお嬢さんで高橋由美がいた。
彼女は美人と言うほどではないが、小柄で可愛い子であり、勉強も割と良い方で医学部を目指していた。
私は数学や物理・化学が得意だったせいか、彼女は時々質問してきた。
家柄が違いすぎるので、恋愛感情は抱かないようにしていたし、自分を好きになってくれるとは全然思っていなかった。
そんな矢先、授業後の教室で二人だけで勉強をしていたところを、生活指導の先生に見られ、後から職員室へ呼ばれ「赤城は真面目で成績も良いのだけれども、高橋由美はPTA会長のお嬢さんで、学校での生活を注意するようにとの要望があるから、今後二人だけになることはしないように」と注意をうけた。
思いがけない注意にムッとしたが、素直に指導に従った。
その後は休み時間にかぎり短時間、彼女の質問に応えた。
彼女のほうも変だとは感じたが、お互い受験勉強が忙しくなりそんな機会も無くなった。

私はセンター試験は予定どおりに得点できたが、彼女は失敗してしまい、国立は諦めて首都にある私立女子医大を受験し合格した。
教師の引き裂き事件が合ってから逆に彼女への思いが強くなり、理学部志望を医学部志望に変更し、彼女の大学がある都市の国立T大医学部を受験することにした。
前期試験当日、私は受験会場に向かう途中で白い子猫が車にひかれそうになるのをみて思わず飛び出して子猫を抱きかかえて飛び退いた。このとき体が車に触れたようで、空中をゆっくり飛ばされていることが分かった。(これで俺の人生は終わりか・・)
次の瞬間何かに頭を打ち付けたらしく意識がなくなった。
どれほど時間が経過したのだろうか、遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえる。
(おい、いつまで寝ているのだ!いい加減に目を覚ませ!お前は死んではいない!)
そう呼ばれて、ゆっくりと目を開ける。(眩しい!)
何か白いものが左右にゆらゆらと動いている。
焦点が合うにつれて、それは医者と看護婦の姿になってきた。
医者は驚いて「君は、2週間眠り続けていたんだ。あれだけの事故にあっても傷ひとつないし、意識が戻らないのが不思議だった。私の言うことが解るかい?」
「ええ、よく判ります。」
白い子猫を救ったことまでは覚えているのだが、その後のことは覚えていない。
何か大事なことがあったような気がするがどうしても思い出せない。
その後の検査で特に異常はなかったので退院した。
もちろん事故のせいで前期は受験できず、後期も受けたが不合格だった。
普通ならショックのはずだが、事故以来いろいろなことに悩まなくなった。
家庭の事情もあり、予備校に通うことができず、家を出て自活しながら受験勉強を続けることにした。
年齢をごまかし、住み込みで水商売の従業員になる。
こういったところは仕事はきついがあまり個人を詮索しないので就職しやすい。
仕事はウェイター、呼び込み、皿洗い、掃除、使い走りなどいろいろ。
19才になったばかりの私には見るもの全てが新鮮で興味深く、いかに客を満足させ喜ばせるかが重要である事を知る。
全て金の為に仕事をしている。学校の成績などは所詮お遊びでしかないことも分かった。
人が嫌がることも厭な顔をしなかったし、童顔でもあったので割と可愛がってもらえた。
はじめは怖い世界かと思ったが、ここで働く人たちは表社会の人たちに比べれば、むしろ正直な人たちが多く、ひとたび仲良くなればかえって信頼できるくらいである。

ある日、頭をタオルで覆って化粧部屋の掃除をしていて眼鏡を割ってしまった。
眼鏡を外した私を見て「眼鏡ないほうが格好いいじゃない。女の子みたいな顔をしているのね、コンタクトにしたら?」と若い女の子に言われた。
その後は眼鏡を外し、コンタクトを使用した。
いろいろな遊びも女性の扱いも、この世界の人たちから教わり、随分とお世話になる。

一年半くらいでかなり貯金できたので止めることにして、四畳半の安アパートに引っ越し近くの喫茶店でアルバイトをしながら受験勉強に集中した。
T大はあきらめK大医学部に運良く合格した。
高橋由美に連絡しようと思ったが、今更なので止めることにした。

入学式当日から以前の眼鏡にもどし目立たないように学生生活をが始まる。
家庭教師の需要も多く、しかも医学部生は家庭教師のアルバイト料はかなり多かった。
家庭の収入が少なく成績も良い方だったおかげで奨学金も難なく借りられた。