当社では、デジタル教科書・教材を開発していますが、特にデジタル教科書では、「朗読・読み上げ機能」の搭載が必須になっています。
この「朗読・読み上げ機能」は、教科書の文書を音声で読み上げる機能で、主に特別な支援を要する児童に向けた機能となっています。
文章が音声で読み上げられると、読み上げられている場所がハイライト表示されますので、読んでいる場所がわかるようになっています。
また、読み上げ速度を速めたり、遅くしたりする機能もあります。
ちなみに、特別な支援を要する児童に向けた機能としては他に、
・総ルビ表示
・文字の拡大
・リフロー
・文字色や背景色の変更(白黒反転など)
などがあります。
これらの機能は、システムの開発の他に、デジタル教科書をコンテンツとして制作する「オーサリング」作業において、結構な労力を要するもので、制作サイドにとっては、かなり大きな負担となっています。
それでも、これらの機能は、障害を持つ児童に必要なものですし、特にそういった児童への配慮ができる点は、デジタル教科書の大きな利点でありますので、多くの児童の学習に役に立っている場面を想像しながら、作業に勤しんでいます。
ところが最近、「朗読・読み上げ機能」は、特別な支援を必要とする児童以外の学習にとっても、有益な機能であるということを聞きまして、調べてみたところ、このような効果があることがわかりました。
1. 読解力の向上
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音声と視覚の両方で情報を処理する「マルチモーダル学習」により、文章の意味理解が深まる。
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特に長文読解や専門用語を含む文章に対して効果的。
2. 集中力と持続力の強化
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目で読むだけでなく耳からも情報を得られるため、集中力を持続しやすく、疲労を軽減できる。
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ADHD傾向が軽度にある生徒にも有効という研究も。
3. 語彙力・音読力の向上
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正確な発音を耳で覚えられるため、語彙習得や音読練習に効果的。
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英語などの第二言語学習において特に有効。
4. ライティング支援
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自分が書いた文章をTTSで読み上げて確認することで、文法ミスや違和感のある表現に気づきやすくなる。
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推敲・校正の習慣づけに役立つ。
5. 情報のインプット効率化
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通学中や作業中など「ながら学習」が可能に。
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教科書や資料の読み上げにより、視覚を使わずにインプットできる。
6. 記憶定着の促進
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「音声刺激」による記憶のトリガー効果がある(例:ラジオ講座の記憶が残りやすい)。
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特に記憶が弱い分野において補助的な効果。
7. 読書嫌いの克服
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活字への心理的抵抗を減らし、「聴く読書(リスニング・リーディング)」として読書量を増やせる。
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読書習慣がない子どもにも有効。
2021年に発表されたPaola Bonifacciらの研究では、音声読み上げ機能(Text-to-Speech, TTS)が健常児童の読解力と集中力に与える影響を調査しました。この研究では、8〜13歳の健常児童50名と読字障害を持つ児童20名を対象に、自己ペースでの黙読とTTSを用いた読み上げの2つの条件で文章を提示し、読解力とマインドワンダリング(注意散漫)の頻度を測定しました。
研究の結果、TTSを使用した場合、健常児童の読解力が自己ペースの黙読よりも有意に高まり、マインドワンダリングの頻度が減少することが確認されました。具体的な数値として、TTS条件下では読解力のスコアが平均で15%向上し、マインドワンダリングの頻度が20%減少しました。
これらの結果は、TTSが健常児童の読解力と集中力の向上に寄与する可能性を示しています。特に、視覚と聴覚の両方を活用するマルチモーダルな学習アプローチが、情報の処理効率を高め、注意力の持続に効果的であることが示唆されました。
障害を持つ児童の研究結果は数多くあり、学習の補助効果は十分にエビデンスがある状態ですが、健常児童に関する研究レポートは上記のこのレポートと他数点といったところです。
また十分なエビデンスが得られていないため少ないのか、研究の対象が障害を持つ児童に向きやすいためなのか、判断が難しいのですが、もし、マインドワンダリングの頻度が20%減少するのであれば、すばらしい効果です。
マインドワンダリングとは、いわゆる「気が散った」状態です。学習の最大の敵ですね。
引き続き研究が進むことを願うばかりです。
ところで、デジタル教科書やデジタル教材で「朗読・読み上げ機能」を実現するには、以下の作業が必要です。
・文章の範囲座標の抽出
・読み上げの区切り位置の定義
・読み方の正誤判定と補正
・読み上げ音声の録音(または合成音声による生成)
・文章の範囲と音声データの割当
・音声データの暗号化と軽量化
・ページまたぎの場合の特殊処理付与
・音声のチェック
これを、ほぼ手作業で行っています。
数百ページにも及ぶ教科書で全てこの作業を行うのは、かなり大変です。時間も人も、そしてお金もかかります。
このような背景から、残念ながら全ての教科書や教材で、「朗読・読み上げ機能」が搭載されているわけではありません。
全ての教科書と、資料集や副読本、ドリルなどでも共通して、「朗読・読み上げ機能」が搭載されると、この機能の学習への有用性がもっと研究されてゆくかもしれません。
当社では、そんなこともありまして、AIを使って、「朗読・読み上げ機能」を実現する作業を大幅に軽減するツールを開発中です。
これが完成したときに、「朗読・読み上げ機能」が教科書・教材に全搭載されることを想像しながら、研究と開発を進めています。
