よく霊能者の人達が、亡くなった人は自分の葬儀を見に来るというけれど
母も本当に、見に来ていた。
母の葬儀は自宅で執り行い、私達姉妹と家人の親友夫婦と友人、そしてお向かいの
Wさんがお焼香に来てくれた。
母は組紐(着物の帯に結ぶ紐)と鎌倉彫を習い、それぞれ師範の資格を持っていた。
小さな祭壇の隣に母の作品のコーナーを作り、友人たちやご住職、葬儀社のMさんに
見ていただけたらと飾り、母の人となりが解ってもらえたらと思った。
通夜の読経が始まると、母は お気に入りの赤いジャケットと黄色いステッチの入った
深緑のパンツを履いて、いつもの品物を選ぶ時の様な仕草で自分の組紐や
鎌倉彫を眺めていた。
「へぇー、こんなんだ。(こういうの なんだ。)」
何でも面白がる母、そのままだった。
ヒタヒタと腹の底から湧き上がるような悲しみの中で、ああ本当に見に来たと
解って嬉しかった。
亡くなった人たちはちゃんと、私達を見ている。
忘れてはならない、と思う。