RC30といえば、その当時400ccのバイクをバイトして買うのがやっとやっとな自分ら“チューメン小僧”からしてみれば、その価格も少数生産とせざるを得ない理由も具体的には理解できていませんでした。
しかし今になって考えるとその走りや作りの質の高さや、それと引き換えとも思える市販車では考えられない例えばオーバーホールのスパンの短さやブローバイの多さといったことは、実際にRC30を所有することが無かったバイク乗りたちにも意識や知識をもっと高いところへと導くような影響を多少なりとも与えていたのではないかと思います。

RC30が発売となってから2年近く経つとある意味 RC30の廉価版と言えるような NC30が発売となり、これは本当に人気車だったのでしょう。 私の身近にもこの NC30を買って乗っていた友人が何人もいました。
私も初期のVFR400R、所謂 NC21などに乗っていてこれはこれで非常によくできたバイクで今でも私のお気に入りの1台なのですが、RC30と比べれば価格はちょうど半分のNC30でさえも、このNC21などは一気に色褪せて見えるほどにその作りや走りは段違いだったように思いました。

また、この NC30の時点で単に走って速いこともですがあらゆる部分の質感が非常に高く、パーツ一つ一つを見てるだけでもとても美しく魅力的でした。
ちょうどその頃、主に空冷大排気量車にもっと新しい年式のレーサーレプリカ等の足まわり等を流用するカスタムがブームとなり、中でもRC30のフロントブレーキマスターシリンダーは定番中の定番でした。
私も NS400RにこのRC30のマスターシリンダーが、まるでそれのために設計されたかのようにピッタリ取り付けられることを発見し大喜びしたものです。
そしてここでNS400RとRC30のマスターシリンダーは、同じニッシン製でピストンの径は同じφ5/8インチなのにフィーリングが変わったのは、レバー比やレバー形状の違いによることに気づいたのも一つ勉強になったことです。
レバーといえばさらに後にCB1100Rのマスターシリンダーと並べてみると、レバーの角度など位置関係はそっくり同じで、そうなる必然性について考えるのも非常に興味深いものでした。

また、このフロントブレーキのマスターシリンダーのリザーブカップが別体となるのは、RC30より少し前のNSR250Rあたりから始まった流行だったと思いますが、この250ccや400ccのレーサーレプリカに着くマスターシリンダーは基本的な構造や外観はRC30の物と同じですが、リザーブカップを取り付けるステーが見るからに安そうなプレス成形した鉄板で、これを RC30のアルミ製のに換えるだけで見た目の質感が大きく変わったものです。
私のNS400Rも最初はこのフロント側のマスターシリンダー径がφ5/8インチということで RC30の物を流用してピッタリでしたが、後にフロントフォークやホイールをはじめブレーキ等もCBR400RやVFR400Rの物に換えると適正なマスターシリンダー径はφ14mmとなり、そこで流用したNSR250Rのマスターシリンダーのステーをわざわざ RC30のアルミ製に換えて、これまたささやかな自己満足としていました。

そういえばこの学生時代、やはり大のホンダファンで後に和光R&Dの研究室に勤めることとなった友人K君と話題になったのは、NC30はRC30と違ってリヤブレーキキャリパーがフローティングマウントになっていないけど、これをRC30の純正部品を取り寄せてRC30と同じフローティングマウントに出来そうだということでした。
しかもNC30のフレームの左側ステップの上の方に、明らかにそのトルクロッドを取り付ける所まであるというので、NC30ではフローティングとしなかった理由は単にコストの問題なのか? はたまた特性や走り方の違いがあるからなのか? などととりとめも無い議論を楽しんだものです。

あとNC30といえば片持ちのスイングアーム、鋳造によるプロスティックアーム(?)も特徴だったわけですが、この側面のラベルに『elf france』の文字を見つけては
「あ!あのモトエルフにホンダがエンヂンを供給していたのはこういうことだったのか!」
と、これまた興奮していたのも、最も些細かもしれませんが確実にロマンを感じさせてくれた部分でした。