2024年から始まった相続登記の義務化は、2026年に入り本格的な運用段階に入っている。
不動産を相続した場合、「相続を知ってから3年以内」に登記をしなければならず、正当な理由なく怠れば10万円以下の過料の対象となる可能性がある。
さらに2026年には、住所変更登記の義務化や所有不動産の一覧把握制度も始まり、国は明確に「不動産の管理責任を個人に強く求める方向」に舵を切っている。
しかし、この制度には構造的な問題がある。
1.「義務化」と「手続き能力」の乖離
最大の問題はここにある。
制度としては義務化されているが、
実際に手続きを理解し実行できる人は多くない。
相続登記は単なる届出ではない。
・戸籍収集
・相続人確定
・遺産分割協議
・評価証明書取得
といった複数の工程を経る必要があり、専門知識が前提となる。
つまり、
義務は全国民に課されているが、実務は専門職レベル
という構造になっている。
この時点で、制度として歪みがある。
2.「誰に頼めばいいのか分からない」という現実
手続きができない場合、多くの人はこう考える。
・司法書士に頼むべきか?
・行政書士ではできないのか?
・自分でやるしかないのか?
結論としては、
登記申請の代理は司法書士の独占業務である。
したがって、
・行政書士 → 書類作成や相談は可能だが代理申請は不可
・司法書士 → 登記代理が可能(ただし費用発生)
この構造により、
「金を払うか、難解な手続きを自分でやるか」
という二択が生まれている。
特に地方では、
・不動産価値が低い
・相続財産が少ない
というケースも多く、
費用倒れになるため放置される可能性は高い。
3.法務局のキャパシティ問題
理論上、義務化すれば相談・申請は急増する。
しかし現実として、
・法務局は人員増強しているわけではない
・手続きは依然として煩雑
・窓口対応には限界がある
という状況がある。
結果として想定されるのは、
・相談待ちの長期化
・書類不備による差戻し増加
・高齢者の対応困難
つまり、
「制度は整備したが、処理インフラは十分か?」
という根本問題が残る。
4.罰則による強制の是非
今回の制度は「義務+過料」という構造を持つ。
これは行政の典型的な手法だが、問題は以下の点である。
・手続き困難者への配慮が不十分
・義務の周知が十分とは言えない
・実務支援体制が追いついていない
この状態で罰則を課すことは、
「理解できない人にも一律に責任を負わせる」
ことになる。
結果として、
・高齢者
・情報弱者
・地方在住者
ほど不利になる可能性がある。
5.制度の本質―国の狙いは何か
この制度の本質は明確である。
(1)所有者不明土地の解消
誰のものか分からない土地は、
・公共事業の障害
・災害復旧の遅延
につながる。
(2)課税の適正化
所有者が明確になれば、
・固定資産税
・相続税
の徴収が確実になる。
(3)不動産流通の活性化
名義が整理されることで、
売買・活用がしやすくなる。
つまり、
行政の効率化と税収確保
という側面は否定できない。
6.見落とされがちなリスク
義務化は単なる手続き問題ではない。
例えば、
・登記により借金(抵当権)が発覚するケース
・相続人間の対立が表面化
・放置していた問題の顕在化
など、
「やれば終わり」ではなく「問題が見える化する」制度でもある。
7.本来あるべき姿
制度として求められるのは以下である。
① 手続きの簡素化
マイナンバー連携などによる自動化
② ワンストップ相談体制
・法務局
・司法書士
・行政書士
・自治体
の連携強化
③ 費用補助の拡充
低資産層への支援
④ デジタル化の徹底
オンライン完結型への移行
まとめ
相続登記義務化は、社会的には必要な制度である。
しかし現状は、
・義務だけが先行
・実務支援が不十分
・費用負担が重い
というアンバランスな状態にある。
その結果、
「やらなければ罰則、しかしやるのは難しい」
という矛盾が生まれている。
制度の本質を見誤ってはいけない。
これは単なる登記の話ではなく、
「国と個人の責任分担の再設計」
そのものである。
今後は、義務化の強化ではなく、
実行できる仕組みの整備こそが問われる段階に入っている。