山口家の朝は、いつも洗面所から少しずつ乱れていきました。

家族は三人だけです。父、母、小学生の娘。大きな家ではありませんが、暮らすには十分だと思っていました。

けれど、洗面所だけは毎朝小さな渋滞になりました。

父が髭をそっている横で、母が洗濯機を回そうとする。娘は歯ブラシを持ったまま鏡の前に立ち、誰かの腕にぶつかる。タオルは棚から落ち、洗剤のボトルは洗面台の端に並び、ドライヤーのコードはいつも誰かの足元にありました。

ある朝、娘が眠そうな顔で言いました。

「ここ、三人で使う場所じゃないみたい。」

母は笑いましたが、その言葉が少し気になりました。

洗面所は古くありません。壊れてもいません。収納も一応あります。なのに、なぜこんなに使いにくいのか分かりませんでした。

最初、母は収納棚を買おうとしました。

ネットで細い棚や壁掛けラックを見ました。洗濯機の上に置ける収納も調べました。でも、何かを足せば足すほど、もっと狭くなるような気がしました。

その週末、家族で洗面所にあるものを全部出してみました。

タオル、洗剤、掃除道具、ヘアアイロン、ドライヤー、予備の歯ブラシ、化粧品、娘の髪ゴム。リビングの床に並べると、洗面所に入っていたものの多さに三人とも少し驚きました。

父が言いました。

「物が多いだけじゃなくて、置く場所が合ってないんだね。」

そこで、母は一度、洗面所の形を整理して考えることにしました。間取り図作成を使って、洗面台、洗濯機、ドア、棚の位置を簡単に描いてみました。

上から見ると、毎朝なぜぶつかるのかがよく分かりました。

ドライヤーを使う場所と洗濯機の前が重なっていました。タオル棚は洗面台から少し遠く、濡れた手で取りに行くには不便でした。洗剤は洗濯機の近くにあるべきなのに、なぜか洗面台の下に入っていました。

大きな工事は必要ありませんでした。

タオルは洗面台の横へ。洗剤は洗濯機の上の小さな棚へ。ドライヤーは壁に掛け、コードが床に落ちないようにしました。娘の髪ゴムとブラシは、彼女の手が届く高さの小さな箱にまとめました。

そして、洗面所で毎朝することを少し分けました。

父は髭そりを少し早めに済ませる。娘は歯みがきのあと、リビングで髪を結ぶ。母は洗濯機を回す時間を五分だけ後にする。

たったそれだけでした。

でも、月曜日の朝は少し違いました。

誰も大きな声を出しませんでした。ドライヤーのコードにつまずく人もいませんでした。娘は自分の髪ゴムをすぐに見つけました。

父が出かける前に言いました。

「今日は洗面所が怒ってなかったね。」

母は笑いました。

間取り図を作るまで、彼女は洗面所をただの小さな場所だと思っていました。でも実際には、家族の一日が始まる大事な場所でした。

朝が少し楽になると、家全体の空気も少しやさしくなります。

小さな洗面所でも、ちゃんと使い方を見直せば、家族三人分の朝を受け止められるのだと思いました。