前回、IPA主催のフォーラムにおける討論会でIT業界の重鎮がいかに現場に対して無理解であるかを書き記しました。

その後、オリジナルの@ITさんの記事や私のブログ・メルマガに対するトラックバックやはてなブックマークで色々な疑問が提起されているのですが、 そのなかで、討論会に学生側のパネラーとして出席した伊藤さんのブログが興味深いやりとりがなされていたので、そちらを中心に疑問に答えていこうと思いま す。

【東大MOT生の奮闘日記】
http://it-ura.seesaa.net/article/64544507.html

ビジネスの内容が分かりにくい

ブログ内では、IT業界が行っているビジネスの内容が分かりにくいという学生の意見に対するIT業界の重鎮の回答に対して、

『BtoBのビジネスをしている企業の業務が学生から見えにくいのは当然で、見えにくいなりに工夫をしないといけないと思う。

でも、パネリストの口ぶりからは見えにくいのは当然のことで問題と感じていないというような雰囲気が伝わってきた。興味を持たなければ、インターンにも来ないだろうに。』

というコメントを残しています。
私も同感です、その通り。

現状を当たり前と認識している時点で、成長を諦めたと見なされても仕方がないですよね。IT業界を代表する人物がIT業界のビジネスが見えにくいことを改善する努力をしなければダメです。

証券業界では、高校の自由授業時間を利用して、株式や債券の仕組みに絡む証券会社の役割を説明するようなユニークな取り組みがあります。IT業界でも同じようなことを行えば、専門学校や大学に進む学生達に対してIT業界への興味を植えつけることができますよね。

「キッザニアにNTTデータがブースを出店するというけど、それでは意味がない」という話を伊藤さんが書いていますが、IT業界は前述のような活動こそ行うべきなのだと私も思います。

しかし、それを実行している企業はほとんどありません。

少ない事例として、2004年にマイクロソフトが嘉悦女子高等学校で行った情報セキュリティ公開授業やKCG社の仕事紹介セミナーなどが挙がるくらいでしょうか。

私自身はSI企業には属していないため、そういった活動を積極的に推進する立場にないことが残念ですが、富士通や日本IBMといった企業であれば、そのような活動を推進することもできるでしょうし、企業体力という面でも余力があるでしょう。

私もできれば、現職を退いた後、IT業界への啓蒙活動を行いたいです。

プログラミングスキルはなくても良い?

もうひとつ、IT業界に必要なスキルに関する学生側からの質問で、IT業界の重鎮が「コミュニケーション力があれば十分で、プログラミングスキルはなくても良い」という回答について。

『ITを専攻している学生達からは、「就職時にITスキルが問われないのだとしたら、大学でやっていることには何の意味があるのか」という質問が出ていたのだけど、明確な回答はなかったと思う。

その人たちは、ちょっとショックを受けていたような気がする。』

『「入社時にITのスキルを問わないというのは、Googleのような企業の方針とは反対であるが、それですばらしいサー ビスを作ることができるのか」という質問が出たのだけど、「Googleの開発と日本のカスタムメイドなシステムを作るSIerの開発は違うもの。 Googleはスモールチームで仕上げるが、日本は製造業的にラインを組んで仕上げるため、いろんな人材が必要になる。」とのこと。

単に効率の悪いシステム開発をしているということではないかと思ったのだが、どうなのでしょう。』

これも重鎮の回答がおかしいと私は思います。

まず、就職時にITスキルを求めないという点について。重鎮がこのような発言をした理由は分かります。

彼らの内心を表すなら、「学校でのプログラミングなんて、実践経験に比べたら所詮は遊びだよ」というところだと私は正直思います。

なぜこんなことが言えるのか。

それは、システムインテグレーター(SIer)が手がける案件のほぼ全てが、高度なプログラミングスキルなど要求せず、むしろ顧客の要件をうまくまとめてそれを実現することに価値を置くからです。

▼Googleがなぜ高度なプログラマーや数学者を募集するのか。
▽答え:彼らの本業は「優れたサーチエンジンを開発すること」だから。

同じように、今度はSIerで考えてみましょう。

▼日本のSIerがコミュニケーション力の高い人物を募集するのはなぜか?
▽答え:彼らの本業は「顧客の要件通りにシステムを作ること」だから。

どうでしょう、これがSIの道理なのです。こういったことをIT業界の重鎮は回答すべきでした。

私が言いたいのは、この現状を知ってか知らずか、SIを行う企業への道を目指す人々が学ぶ機関が業界のニーズとはまったく別の方向に学生を誘導しているという事実です。

この点は許しがたい。これらは教育機関の怠惰です。

では、純粋にプログラミングを行いたい人はどこを目指せばいいのか?その場合、技術力を売りにしている企業を目指すことになると思います。

ただし、そういった企業の多くは会社規模が小さいですから、狭き門は覚悟すべきですし、入ってからも教育面での期待はあまりしないほうがいいと思います。おそらくオンザジョブトレーニング(OJT)で頑張ることになるでしょう。

最後に一言、学生側にも苦言を呈したいことがあります。

IT業界の動向がどうなっているのか、どんなプレイヤーがいて、どのような仕事をしているのかが分からないと言う学生が多いですが、それを知るためにどんな努力をしてきたでしょうか。

日経情報ストラテジーと日経コンピュータさえ読んでいれば、上からと下からの視点でIT業界を漠然と捉えることはできると思います。

雇用する側と雇用される側を対等であるべきと考えるなら、雇用される側にも相応の努力を求めることはあって然るべきです。

IT業界を盛り上げる努力は続けていくべきだと思いますが、IT業界の中身がよく分からない、という時点で思考を停止しないよう、常に考え続ける姿勢を持ってもらえると、この業界の未来も暗くはないと思います。