その時は
「バスケかなんかしよう。体育館に来たんだし」
渡辺が立ち上がり、俺の顔を覗いた。香水だろうか、とてもいい香りがする。
「あ、あぁ。じゃあバスケするか」
倉庫に向かった。三歩ほど下がって、渡辺の後ろ姿を見ながら。
倉庫を開けようとすると、案の定鍵が閉まっていた。
「閉まってるね」
不意に渡辺がこちらを振り向いた。瞬時に目を逸らし、ボールを探すふりをした。ふりのはずだったが、たまたま目を逸らした所にバスケットボールがあった。
「あっ、バスケットボールあった」
ステージ上にあるバスケットボールの元に向かい拾い上げ、渡辺に渡した。
ボールは渡辺と俺の間を行ったり来たりする。
「優汰くんって好きな人いるの」
「えっ」
突然の質問に聞こえないふりをした。
「優汰くんって、あまり自分のこと話さないよね」
がっかりしたような声を発した。
「そうかな」
そんなつもりは無い。
「だって、優汰くんのこと何も知らないよ。趣味とか誕生日とか血液型とか好きな食べ物とか嫌いな教科とか」
広げた手の指を一つずつ折っていく。
「優汰くんが一位って聞いたときホントに驚いたし」
「なら聞いてくれれば良かったのに」
渡辺にボールを弾ませ渡す。
「あっ」
手からボールが弾かれ、体育館の隅で止まった。
「ごめんごめん」
渡辺がボールを拾いに行ってる間に、かがんで靴紐を結んだ。
「だって雰囲気」
「えっ、何か言った」
遠くで渡辺が何かを呟いた。
ボールを両手で抱え、いじけたような顔をしてこっちにきた。
ボールを床に置き、その隣に渡辺が座った。
「えっ、もうバスケやらないの」
「だって」
また呟いた。
「えっ」
ゆっくりと渡辺の隣に座る。
「だって、何か聞きづらい雰囲気出してるし」
「何の話ししてんの」
ボールを手にとり、片手で転がした。
「だから、優汰くんのこと何も知らないって言ったでしょ」
「あぁ、それで雰囲気って」
人差し指でボールをクルクルと回す。黒と赤が混ざる。
「何か聞きづらい雰囲気」
「そうかな」
「りょうちゃんには、何でも話すのに。一位のこともりょうちゃんだけ知ってたでしょ」
「まぁ確かに」
細かくボールを弾ませる。
「でも、テストの順位なんか聞かなかったじゃん。良樹は聞いてきたから答えただけで」
自分で言って、何だか言い訳がましく聞こえた。
「じゃあ、私とか佳代に聞かれたら素直に答えたの」
強気な渡辺に、少し怖じ気づく。
「それは・・・」
素直に「うん」とは言えそうにない。
「じゃあ今日は何でそんなに聞いてくんの。聞きづらい雰囲気出してるとか言ってたのに」
話を逸らす為に、逆に質問をした。
「それは」
声のトーンが変わった。
俺はバスケットボールで遊ぶのをやめた。やめたほうがいい雰囲気の気がして。
「それは、優汰くんが前と違うからだよ」
今度は渡辺がバスケットボールをいじりだした。
「違うからってなに」
「少しだけど、何か話しかけやすくなった。明るくなったっていうか」
「ふーん」
「うん、変わった」
素っ気ない返事とは裏腹に、どこかで嬉しくなって、恥ずかしくなった。そして、どこかへ逃げ出したくなった。
「ふぅ」
立ち上がり、渡辺からボールを取り上げ、ドリブルでゴールに向かった。
放ったボールは、ボードに当たり、ゴールに吸い込まれた。
この約二分後に一時間目の終わりの鐘がなった。
一時間目に二人で一緒にいることを知られたら、また噂になると思い、渡辺を先に教室に向かわせた。
ほんのちょっとの時間体育館に寝そべり、空を見た。大きい体育館より大きい空。
小さな窓から見た空は、窓と同じ小さな空で、それでも空の大きさを感じた。
そんな空より、俺は大きい気がした。
渡辺が立ち上がり、俺の顔を覗いた。香水だろうか、とてもいい香りがする。
「あ、あぁ。じゃあバスケするか」
倉庫に向かった。三歩ほど下がって、渡辺の後ろ姿を見ながら。
倉庫を開けようとすると、案の定鍵が閉まっていた。
「閉まってるね」
不意に渡辺がこちらを振り向いた。瞬時に目を逸らし、ボールを探すふりをした。ふりのはずだったが、たまたま目を逸らした所にバスケットボールがあった。
「あっ、バスケットボールあった」
ステージ上にあるバスケットボールの元に向かい拾い上げ、渡辺に渡した。
ボールは渡辺と俺の間を行ったり来たりする。
「優汰くんって好きな人いるの」
「えっ」
突然の質問に聞こえないふりをした。
「優汰くんって、あまり自分のこと話さないよね」
がっかりしたような声を発した。
「そうかな」
そんなつもりは無い。
「だって、優汰くんのこと何も知らないよ。趣味とか誕生日とか血液型とか好きな食べ物とか嫌いな教科とか」
広げた手の指を一つずつ折っていく。
「優汰くんが一位って聞いたときホントに驚いたし」
「なら聞いてくれれば良かったのに」
渡辺にボールを弾ませ渡す。
「あっ」
手からボールが弾かれ、体育館の隅で止まった。
「ごめんごめん」
渡辺がボールを拾いに行ってる間に、かがんで靴紐を結んだ。
「だって雰囲気」
「えっ、何か言った」
遠くで渡辺が何かを呟いた。
ボールを両手で抱え、いじけたような顔をしてこっちにきた。
ボールを床に置き、その隣に渡辺が座った。
「えっ、もうバスケやらないの」
「だって」
また呟いた。
「えっ」
ゆっくりと渡辺の隣に座る。
「だって、何か聞きづらい雰囲気出してるし」
「何の話ししてんの」
ボールを手にとり、片手で転がした。
「だから、優汰くんのこと何も知らないって言ったでしょ」
「あぁ、それで雰囲気って」
人差し指でボールをクルクルと回す。黒と赤が混ざる。
「何か聞きづらい雰囲気」
「そうかな」
「りょうちゃんには、何でも話すのに。一位のこともりょうちゃんだけ知ってたでしょ」
「まぁ確かに」
細かくボールを弾ませる。
「でも、テストの順位なんか聞かなかったじゃん。良樹は聞いてきたから答えただけで」
自分で言って、何だか言い訳がましく聞こえた。
「じゃあ、私とか佳代に聞かれたら素直に答えたの」
強気な渡辺に、少し怖じ気づく。
「それは・・・」
素直に「うん」とは言えそうにない。
「じゃあ今日は何でそんなに聞いてくんの。聞きづらい雰囲気出してるとか言ってたのに」
話を逸らす為に、逆に質問をした。
「それは」
声のトーンが変わった。
俺はバスケットボールで遊ぶのをやめた。やめたほうがいい雰囲気の気がして。
「それは、優汰くんが前と違うからだよ」
今度は渡辺がバスケットボールをいじりだした。
「違うからってなに」
「少しだけど、何か話しかけやすくなった。明るくなったっていうか」
「ふーん」
「うん、変わった」
素っ気ない返事とは裏腹に、どこかで嬉しくなって、恥ずかしくなった。そして、どこかへ逃げ出したくなった。
「ふぅ」
立ち上がり、渡辺からボールを取り上げ、ドリブルでゴールに向かった。
放ったボールは、ボードに当たり、ゴールに吸い込まれた。
この約二分後に一時間目の終わりの鐘がなった。
一時間目に二人で一緒にいることを知られたら、また噂になると思い、渡辺を先に教室に向かわせた。
ほんのちょっとの時間体育館に寝そべり、空を見た。大きい体育館より大きい空。
小さな窓から見た空は、窓と同じ小さな空で、それでも空の大きさを感じた。
そんな空より、俺は大きい気がした。