その時は | BOOKMAN

その時は

公園で、空を見て微笑んでいる渡辺を見つけた。空を見ていたせいか、近くにきても俺に気付いていない。
そっと肩を叩く。
「あっ、優汰くん。おはよう」
「あ、あぁ、おはよう」
似たようなやり取りを何度もしている気がする。
「急がないと遅れるかもね」
口ではそういっているが、慌ている感じはしない。
「じゃあ、急いで行くか」
俺もそういったが、急ぐ気はない。
渡辺の歩く速さは、渡辺の性格を表すかのようにゆっくりだ。多分この速さでは遅れるだろう。
「渡辺って遅刻したことあったっけ」
少し気になった。
「うんあるよ。私歩くの遅いから早めに学校行くんだけど、たまに寝坊しちゃうんだよね。」
渡辺のこのおっとりとした雰囲気がすごく癒される。
友達としていなかったら、好きになっていたかもしれない。
「今日、お願いね」
「えっ、あぁ田中を誘う話か」
「うん」
少し照れくさそうにうつむく。
「あんまり期待するなよ。必ず誘えるか分かんないし」
こうでも言わないと、断られたときの渡辺の反応がこわい。
「分かってるよ。期待しないで待ってる」
渡辺のこういったときの物分かりはすごく助かる。
「間に合わないかもな」
学校まではまだ距離はあるが、あと10分ちょっとで学校が始まる時間だ。
「そうだね。ごめん私歩くの遅くて」
「い、いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど。遅れたって別にいいし」
慌てて弁明をしたが、少し悲しげな顔をした。 こういう顔が一番苦手だ。対処の仕方が分からない。数秒の沈黙

「一時間目サボるか」
自分でも思ってもみない言葉が出た。
「えっ」
悲しげな顔が驚きに変わった。
「あ、だ、だって一時間目美術だろ。絵の仕上げだけど、俺もだし、お前も終わってたよな」
学校までの長い一本道に出た。
「うん。じゃあサボろう」
これからの約一時間をどう過ごせば良いのだろう。
隣りにいる、笑顔の渡辺と一緒に。