その時は
いつもは渡らない横断歩道を渡り、公園へ。
真っ暗闇。人がいる気配は無い。足音が、いつもの倍大きく聞こえる。
この公園は、細長い形をしている。電車、四両分ぐらいの幅と長さ。遊具は鉄棒とすべり台。それのみ。
昼でも夜でも、平日でも休日でも、夏でも冬でも、人は少ない。
「あそこのベンチに座るか。」
この公園のだいたい真ん中、その両端、そこに一つずつベンチがある。
「う、うん。」
なにか渡辺の様子が少しおかしい。公園に入ってからずっと目をキョロキョロしている。
そしてなぜか、俺のカバンを掴んでいる。
「なに、渡辺。」
後ろを振り返り、渡辺を見る。
「えっ、なにが。」
何かを見透かされたような顔。
「だって、カバン掴んでる。」
「あっ、ごめん。」
手は離れたが、距離が近づいた。
やっぱり様子がおかしい。ベンチに腰掛けても、まわりを気にしている。
「どうかしたか。様子おかしいけど。」
渡辺の顔を覗き込む。目が中央に収まる気配は無い。
「優汰くんは怖くないの。」
そういって、顔を覗き込んだ。いくら渡辺でも、これほど近いと照れる。
「怖くないのって、なにが。」
「え、あの噂知らないの。」
渡辺の透き通る声が、すぐ耳元で聞こえる。
「この公園に幽霊が出るって噂か。」
「うん。」
「いや、知ってるけど。」
何ヶ月か前に、この公園に幽霊が出るという噂が流れた。鉄棒の真横に立って、笑みを浮かべる幽霊。
男子が話し、女子が騒ぐ。くだらない。噂なんかすぐに去る。そう思った。そして実際、すぐに去った。
だが一ヶ月ほど前、複数の女子バスケ部員が、この公園で幽霊を見たと言った。現実感のある話と、二度目の噂ということもあって、真実味が増し、噂は、噂で塗り固められた真実になった。幽霊公園という勝手な名前が付き、学校の生徒は誰も本当の名前では呼ばず、そして、その幽霊を二回見ると呪われるというオプションが、いつの間にか付いていた。
「怖くないの。」
驚いた口調だが、声は小さい。
「別に。」
「幽霊とか信じないの。」
「まぁ、興味ないし。渡辺は信じてるのか。」
と言って、幽霊がいると噂されている鉄棒の方向を見た。幽霊なんかどこにもいない。それより、この暗さでは鉄棒さえもはっきり見えない。
「信じてるわけじゃないけど、あんな噂あったらやっぱり怖いよ。夜の公園ってことでも怖いのに。優汰くんはすごいね。」
渡辺が、幽霊の噂を気にするとは思わなかった。マイペースでおとなしいが、割りとしっかりしている。意外にこういうことで騒ぐのは、佳代のほうだ。
「すごくはないけど。つーか、その幽霊ってあそこの鉄棒の横に立ってる人か。」
少しからかってみた。
「えっ。」
もの凄い速さで、首が鉄棒のほうを向いた。
「どこっ。居ないよ。」
「くくく、ごめん嘘。」
渡辺がこんな反応をするとは、
「もう、優汰くん。」
怒ってる中に安堵感が混じっている。
「くくく、ごめん。」
「はぁ。」
余程驚いたのか、かなり深い溜め息をついた。
少し沈黙が続いた。
「優汰くんはさ、好きな人いる。」
「えっ。い、いないけど。渡辺はいるの。」
唐突な質問に戸惑ってしまった。
「うん。今日はそのことで相談したかったんだ。」
意外な返事。渡辺から何度も相談を受けてきたが、恋愛の相談は、小三のときだけ。それっきり一度も受けたことはないし、恋愛の相談なんかもう一生受けないだろうなと思っていた。俺は、誰とも付き合ったことはないし、恋を知ったのは中学一年生。
もう一度聞きたくなる。何で俺に相談するの、と。
真っ暗闇。人がいる気配は無い。足音が、いつもの倍大きく聞こえる。
この公園は、細長い形をしている。電車、四両分ぐらいの幅と長さ。遊具は鉄棒とすべり台。それのみ。
昼でも夜でも、平日でも休日でも、夏でも冬でも、人は少ない。
「あそこのベンチに座るか。」
この公園のだいたい真ん中、その両端、そこに一つずつベンチがある。
「う、うん。」
なにか渡辺の様子が少しおかしい。公園に入ってからずっと目をキョロキョロしている。
そしてなぜか、俺のカバンを掴んでいる。
「なに、渡辺。」
後ろを振り返り、渡辺を見る。
「えっ、なにが。」
何かを見透かされたような顔。
「だって、カバン掴んでる。」
「あっ、ごめん。」
手は離れたが、距離が近づいた。
やっぱり様子がおかしい。ベンチに腰掛けても、まわりを気にしている。
「どうかしたか。様子おかしいけど。」
渡辺の顔を覗き込む。目が中央に収まる気配は無い。
「優汰くんは怖くないの。」
そういって、顔を覗き込んだ。いくら渡辺でも、これほど近いと照れる。
「怖くないのって、なにが。」
「え、あの噂知らないの。」
渡辺の透き通る声が、すぐ耳元で聞こえる。
「この公園に幽霊が出るって噂か。」
「うん。」
「いや、知ってるけど。」
何ヶ月か前に、この公園に幽霊が出るという噂が流れた。鉄棒の真横に立って、笑みを浮かべる幽霊。
男子が話し、女子が騒ぐ。くだらない。噂なんかすぐに去る。そう思った。そして実際、すぐに去った。
だが一ヶ月ほど前、複数の女子バスケ部員が、この公園で幽霊を見たと言った。現実感のある話と、二度目の噂ということもあって、真実味が増し、噂は、噂で塗り固められた真実になった。幽霊公園という勝手な名前が付き、学校の生徒は誰も本当の名前では呼ばず、そして、その幽霊を二回見ると呪われるというオプションが、いつの間にか付いていた。
「怖くないの。」
驚いた口調だが、声は小さい。
「別に。」
「幽霊とか信じないの。」
「まぁ、興味ないし。渡辺は信じてるのか。」
と言って、幽霊がいると噂されている鉄棒の方向を見た。幽霊なんかどこにもいない。それより、この暗さでは鉄棒さえもはっきり見えない。
「信じてるわけじゃないけど、あんな噂あったらやっぱり怖いよ。夜の公園ってことでも怖いのに。優汰くんはすごいね。」
渡辺が、幽霊の噂を気にするとは思わなかった。マイペースでおとなしいが、割りとしっかりしている。意外にこういうことで騒ぐのは、佳代のほうだ。
「すごくはないけど。つーか、その幽霊ってあそこの鉄棒の横に立ってる人か。」
少しからかってみた。
「えっ。」
もの凄い速さで、首が鉄棒のほうを向いた。
「どこっ。居ないよ。」
「くくく、ごめん嘘。」
渡辺がこんな反応をするとは、
「もう、優汰くん。」
怒ってる中に安堵感が混じっている。
「くくく、ごめん。」
「はぁ。」
余程驚いたのか、かなり深い溜め息をついた。
少し沈黙が続いた。
「優汰くんはさ、好きな人いる。」
「えっ。い、いないけど。渡辺はいるの。」
唐突な質問に戸惑ってしまった。
「うん。今日はそのことで相談したかったんだ。」
意外な返事。渡辺から何度も相談を受けてきたが、恋愛の相談は、小三のときだけ。それっきり一度も受けたことはないし、恋愛の相談なんかもう一生受けないだろうなと思っていた。俺は、誰とも付き合ったことはないし、恋を知ったのは中学一年生。
もう一度聞きたくなる。何で俺に相談するの、と。