背中 | Just a diary

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スーパーで母の背中をみた。
細くて小さい母の背中。肩までの白髪の髪は毛先が外にクルっとはね上がって、年寄りなのにモダンなボブの髪型は、ケアセンターでほめられたって言ってたね。
小学校の四年生の頃には、父はよその女の人の処にいることが多くなって、母は詩吟や生け花を習いに行ったり、着物を誂えてみたり、不相応な高い化粧品を買ったり。
そんな母を子どものわたしは理解ができなかった。四人いる子どもたちを、七人兄弟の末っ子で、十代で親を失くして兄たちにちやほや育てられた母は、どうやって育てていいのかわからなかったのだろうか。
大人になって「何故父と別れてくれなかったの?子どもがいたから別れられなかったって言われてどんな気持ちでいたか分かる?」と問うたわたしに、ただ寂しそうな目を向けた母。
それでも参観日にはきれいに着物を着て現れた母を誇らしく思っていたし、魚は嫌いと自分では食べない母が子どもたちには季節の秋刀魚を焼いたり、フライパンでいっぺんに焼く卵焼きは、所々に焦げがあったりしたけれど、今まで食べたどの卵焼きよりおいしかった。
そんな母が目の前にいる。
細くて小さくて白髪のボブスタイルの髪。
思わず近寄ってその背中を見つめる。
分かってはいる。
五年も前に亡くなった母の筈はない。
わたしは母になんて声をかけたいのだろうか。
「今だから言うけど卵焼き美味しかったよ」
「魚あんまり食べないのって遺伝じゃないの」

ううん違う。
本当に言いたかったこと。
「お母さん、わたしがんになっちゃった」
生きていたら隠そうとしたかもしれないこと。
わたし以上に悲しむのがわかるから。

「お母さん、わたしがんになっちゃった」