か家族を想うとき

 

【原題】SORRY WE MISSED YOU/イギリス・フランス・ベルギー(2019年)

【監督】ケン・ローチ

【出演】クリス・ヒッチェン,デビー・ハニーウッド,リス・ストーン,ケイティ・プロクター,ロス・ブリュースター,チャーリー・リッチモンド,他

【あらすじ】マイホームを持ちたいと考えている父のリッキーは、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立する。母のアビーは、介護士として働いていた。夫婦は家族の幸せのために働く一方で子供たちと一緒に居る時間は少なくなり、高校生のセブと小学生のライザ・ジェーンはさみしさを募らせていた。ある日、リッキーが事件に巻き込まれる。

(シネマトゥデイより引用)

 

働ど働けど猶… 観ているうちにそんな言葉が頭を過りました。自分たちを重ねて観ずにはいられないシーンも多々あって、何度も涙が溢れました。

父リッキーは宅配業で独立、母アビーは介護士として忙しく働き、ふたりの可愛い子どもたちとつつましく暮らす日々。

自分の家を持つことってどこの国でも同じ、一つの大きな夢ですよね。それは家族と幸せに暮らしたいと願うからこその夢であって、それを叶えるために、一緒に過ごす時間と身を削らなければならない社会ってどうなんだろうと。

リッキーが働く宅配システムが、独立とは名ばかりで、搾取されているとしか思えないし。1日14時間働き、仕事の苛立ちを募らせたまま、家庭に持ち込み不和が生じる…。その辺りは他人事ではなく身につまされるというか。

アビーもまた心優しい性格から、世話する老人や障碍者の人たちを放っておけなない。ただ、過剰に労働せざるを得ない状況なら、その対価は受け取れるはずが、それもなく…。高齢化の問題も見え隠れします。今は元気でも誰もが必ず老いていくということ。

観ているのがだんだんとつらくなってくるくらい、止めどない続く負の連鎖にのみ込まれます。息子の父親に対する反抗は、少なからずどこの家でもあること。けれど、親にしろ子にしろ当事者にとっては、紛れもなく心と行動が一致しない時期でつらいんですよ。こんなことしたくないし言いたくない、だけど裏腹な言葉や行動で溝を作ってしまう。そのジレンマが痛いほど伝わってくるし。

娘がまだ小学生だけど、家族の気持ちを一番分かってて、丸く収めようとしてるのが不憫でもあり、救いでもあります。

原題の『Sorry we missed you』は宅配の不在票に書かれている「お届けしましたが不在でした」と言う意味らしいです。そして、もうひとつはそのまんま訳すといいとか。ケン・ローチ監督の優しさに触れられます。

観るものに委ねられるラスト、イギリスだけでなく日本が舞台でもおかしくないし、その重い余韻をしばらく引きずりそう。いい映画です。

 

(画像はすべてお借りしました)

 

ケン・ローチ監督の作品、振り返ればそんなに多くは観てないです。『やさしくキスをして』『麦の穂をゆらす風』『天使の分け前』劇場鑑賞したのは『わたしは、ダニエル・ブレイク』くらい。恋人や若者たち、家族を描きながら、その厳しい社会的背景を映し出す名匠。御年83歳、前作で引退を宣言しながら、今作に注いだ彼の強い信念が感じられる映画でした。全国で上映されている映画館は現在11館、ミニシアター系なので徐々に全国展開されるのでしょうが、こういう作品こそ多くの劇場で公開日に上映してほしいですね。


P.S.余談ですが、息子も中高と色々あり、大学くらいは出てから進路を考えてと入学したものの中退。その後、なんとか宅配のドライバーで社員として登用され、今は生き生きと仕事しています。その子にあった仕事ってあるから押しつけはダメですね。以前はどうなることかと思いましたが、随分頼れるようにはなってきました。

確かに労働時間は長いですが、休みは有給までしっかり取れるようなので、その辺で調節できているみたい。映画とは違ってサラリーマンというのもあるけど、どっちにしても不在票みて時間指定してきたのにまた不在っていうのが一番嫌なようです。ポチったら届くその荷物が簡単に夜配達で届くとは思って欲しくないかも。誰もが小さなところから見直す必要性もありそう。