「なるほどね~」
「じゃあそれ、やっとかないと後々困るんだね」
ひと通りアプローチを話し終えたあとの
彼女の言葉はそんな感じだった。
インターフォンを押して、
出てきた彼女は20代前半の若い奥さんなんだ。
と仕事モードで話しをしていたボクが、
彼女が新婚の若い奥さんだと思い込んでいた理由は、
左手の薬指に指輪をしていたからで、
若気の至りで彼女に飢えていたボクとはいえ、
さすがに他人の奥さんに手を出すとこなどできない。
自分が逆の立場で、と旦那さんの気持ちを考えれば普通にそうなる。
ところが、話し終えて、彼女も納得した返答をしたあとから出てきた言葉は、
「でもお母さんに聞いてみないと勝手に私じゃ決められないから……」
「ん?」
ニコニコしていて、
当時流行っていたのか
ソバージュって言うんですか?
肩までの長さでちょっとブリーチしてあって、
なんとなくだけど、ちょっとだけヤンキーっぽい彼女は家の中から出てきて顔を合わせた瞬間、
ボクのどストライクタイプの女性だったので、
ボクは妙な緊張とともに、左手の薬指を見て平静を保ったと言えばいいのか、
めちゃくちゃタイプの女性だけど、他人の奥さんだからと自制心を働かせたと言えばわかりやすいか、
そんな感じで話した最後に、
お母さんのワードが出てきたことによって、
彼女は娘さんだったと悟った。
彼女は第一印象の性格、見た目、雰囲気全てがボクの理想そのもので、
これから先の人生でもこんな女性には多分会えないだろうと、
会えたことだけでも感謝な気持ちだった。
しかも中途半端な飛び込み営業のボクと、なんの警戒心もなく話しをしてくれて……
ボクはどうにかして彼女との接点が持ちたい。
と、
今日を最後にしたくない。
と、
自分の身分も立場も考えずにそう思った。
しかも彼女がこの家の娘さんとはいえ、
彼氏がいないとは限らないのに、
頭の中ではもう一回彼女と会うことばかり考えていた。
そう、ボクはそれまで特別モテた経験もなく女性の扱いを知ってるほどカッコいい男ではなく、
むしろオクテで硬派を気取って女性を避けるような生き方をしていたので、
どうしてこんな気持ちになったのか自分でも理解できなかった。
自分には不釣り合いでもったいないくらい綺麗な女性だったのに、
仕事で断られただけで、最初で最後の出会いとして終わりたくなかった。
それまでの自分なら、ここでモヤモヤを抱えたまま偶然のできごととして諦めていたかも知れない。
今でも思っていることなんだけど、
彼女がそうさせてくれたと。
よく言う、
やらないままでの後悔より、
やってからの後悔のほうがマシ。
みたいな感情があった。
とにかくやれるだけのことはやってみよう、
って気持ちになって、
とにかくお母さんが帰ってくるのを待って、
どうにかお願いでもして仕事を取ろうと、
仕事さえ取れればまた会える口実ができる。
ボクは夕方まで彼女のお母さんの帰りを近くの広場で時間を潰しながら待った。
が、待った甲斐なくお母さんからはあっさりと断られ、
「お父さんが勝手にやると怒るから」と。
ただお母さんは、その前に彼女がボクの熱心に話す姿勢を評価して良い人アピールしてくれていたようで、印象は悪くなかった。
ボクはお父さんの帰りも待つことにした。
ここまでしつこく粘ったのは、この仕事では後にも先にもこの時だけだった。
お父さん帰宅。
目も合わそうとせずに「いらないよ」
終わった。
たった数時間の、夢のような出会いは、
お父さんのひとことでホントに夢で終わった。
ガックリしたボクは
「やっぱそんな良いことなんて思った通りにはいかないよな」
くらいに思いながら家の玄関を閉めて帰ろうとした。
「お兄さん!」
「金額的にそんな高いモノじゃないから私が払うから、お願いしますよ」
彼女のお母さんの声だった。
