第三十話 恋愛・初めてのデート
優希が史奈子と、映画を見に行くことに決まったのは、前日のことである。
今日はクリスマスイヴ。
サンタが良い子の家に訪れる、聖夜だ。
もうサンタが来ない年齢の二人には、互いに互いでプレゼントを用意しなければならない。
しかし二人はテストやら、生徒会長占拠の準備やらで、プレゼントを買いに行ってる暇がなかった。
付き合い始めたのだから、何か形ある物を残したかったが、忙しさにかまけて何もできなかった。
優希は前日になって、その恐ろしさから逃れようと、素直に謝ることにして電話をかけた。
あちらも準備できなかったと言った。
それならせめて思い出くらいをと、簡単な食事と映画を観ようということになった。
公園のオブジェの前で待ち合わせをして、早速映画を見に行った。
銀河をかける魔法と恋の物語、そんな映画だった。
優希には恋愛より、朝のニュースの方が気になっていた。
銀河つながりで頭に残っていたのだが、最近星が消えるらしい。
なぜ消えるか、は現在も不明だったが、現れたり消えたりを繰り返しているらしい。
しかも日を追うごとに、その星の数は多くなっているという。
そしてそれには、いろいろな説が唱えられている。
消えた星が、早ければ数時間で再び姿を現すので、消滅の類ではない。
重力異常のために重力レンズが発生し星を消したりしている、というちょっと小難しい説が一番有力だと言っていたが、優希にはその時コメンテイターの何げなく言った、さえぎる遮蔽物―――つまりUFO―――が宇宙を飛んで星がその陰に隠れたのではないか、という説がもっともらしいと思った。
この時代にもなってUFOの存在を信じている人は少ないが、神もしくは悪魔やらと体を共有していた優希にとっては、それはありえる、と思えてしまうのだった。
しかし、UFOの存在を信じるボクもボクだなと苦笑が漏れてしまった。
ちょうど映画はクライマックスを迎えようとしていた。
銀河をかける戦士と姫が結婚式をしていた式場に乗り込んできた悪の大魔王と決着をつけるシーンだ。
強力な魔法にも負けじと戦う主人公戦士の姿が印象的だった。
「面白かったね」
「ある意味派手な結婚式だったね」
そこで史奈子の質問。
「ユウちゃんは派手婚が好みなの?」
少し考えてからの優希発言。
「地味でいい、少なくとも結婚式にまで命に狙われたくない」
「命狙われてるのに結婚式なんてできないよー」
それもそうだと笑いが飛ぶ。
「あ、パンフレット買ってきてもいい?」
「並んでるよ」
「あー、大作映画が今日公開だったね。あれも見たいけど、この人じゃパンフ買うのにも苦労ー」
その大作映画と同じグッズ販売所でパンフレットが売られているようだ。
「どうする?」
「待ってて、私買ってくる」
ん、と一声かけ座れるところを探して優希はそこに座った。
外とつながっている場所だった。
少し寒い。
史奈子を待って数時間もたたない頃、見知った顔が横切った。
最近とんと学園で見なかった顔だ。
一か月前の生徒会長占拠予選にすら顔を出さなかった人である。
もし彼が占拠に出ていれば、優希は生徒会長との戦いのチケットを取れなかったに違いない。
「番長さん!」
「ん、おう優希か、どうしたこんなところで?」
「うん、映画を観に。番長さんこそどうしたの?最近学園でも見ないよ」
「あ―――、ん、そうだな。この際良いか」
何が良いのか分からないが、番長は優希の向かいに座る。
「大事な話があるんだ、ちょっといいか?」
「え、うん。人待っているから、その間なら」
「―――、ん」
そこで息を番長は吸う。
真剣な顔だ。
「俺のいた未来の話だ」
「み、らい?」
「確定していない未来から俺はやってきた。それは知っているな」
「うん、なんで確定していないか知らないけど」
いいところを聞いてくる。
番長は答えた。
「可能性があるからだ。大ザッパに行って二つの未来」
「二つ?」
「一つは俺のいた未来、もう一つは俺の知らない未来」
「その二つの未来は何が違うの?」
番長が息を吸う。
話の中核だった。
「魔法だ」
「まほう…?」
「魔法のある未来と、ない未来。今はまだどちらになるか決まっていない」
「決まってない?」
「お前が決めるんだ。世界律を組み替えて」
思いつくのは、今は失ってしまった能力。
「…プロパティの変換……」
「その判断材料をやる」
優希はあわてて話を止める。
「き、聞いた方がいいの?考えが片一方によらないかい。ボクが決める未来が一つになるよ」
「ああ、それは大丈夫だ。たぶん近い将来、俺の知らないもう一つの未来の惨状をお前は知るはずだ」
「言い切れるんだ……」
「奴が帰ってくる方法はそれしかないからな、まあ詳しくは奴に聞け。今は俺のいた未来だ」
「うん」
息をのむ。
番長の真剣さが、さらに上がる。
二人の空気は凍りついた。
「地獄だ」
冗談に聞こえるが、番長は笑っていない。
真実だ。
「魔法のある世界だ」
「悪魔が魑魅魍魎が、世界を喰らう」
「魔法という魅力的な食い物に悪魔どもが喰らいつく。悪魔が魔法を使ってやりたい放題だ」
「俺たちは日々生き残ることで精一杯。体に対魔法武器を仕込んだリして、悪魔に対抗している。人が生きられる未来じゃない。俺のコミュニティは、俺を最後に全滅した。俺は魔法を使って、必死でこの世界まで逃げてきた。もしかしたら俺は人類最後の生き残りだったのかもしれない」
「そんな……」
「魔法がどう発動して時間を越えたのか、俺には分からない。もしかしたら神が、お前に真実を伝えるためにこの時代に飛ばしたのかもな」
「でも大丈夫だ。最近俺は修行をしている。部下の四天王も一緒に、な」
「来るべき未来に対応するために」
それで、番長が最近学園を休んでいる理由がわかる。
そんな未来がもし来るのだとしたら、少しでも強くなっておかなければならない。
生き残るためには。
「ボクが未来を決める」
「そうだ」
「でも、それ以上の地獄なんてあるのかなあ。なんかもう魔法のない未来がボクの中で確定したような」
「そうか、だがな。たぶん、多分だが、最近こう考えるようにもなった」
「もう一つの魔法のない未来も地獄ではないか、と」
「じゃあ、どっちを選べば…」
「決めるのはお前だ、相談ぐらいにはのってやるが、あくまで決めるのはお前だ」
「忘れるな、もう一度だけ」
「決めるのはお前だ」
言うだけ言って、番長は帰った。
渦巻くのは初めて知った、己の運命と選択肢。
半年位前にニアが話していた内容が少しずつパズルのピースの様にハマるのが感じられた。
でもまだピースは足りない。
悪魔とは何か。
また、神とは何か。
ニアに定義だけでも聞いていたように思えるが、それらはすでに忘れ去られていた。
ニアは帰ってくるって言っていた。
生きて。
またその時、聞こう。
思考の回転をゆるめながら、史奈子がちょうどパンフレットを買ってくるのが見えた。
西暦4000年を前に、徐々に歯車は回りだす。
すべてが動き出そうとしていた。
不気味に光るは、消える夜空の星々たち。
その、消える光は確実に禍々しさの襲来を告げていた。
終局は近い――――――。
