第二十五話 十人目・彼はボクらの仲間です | ONCE MAGIMAGI

第二十五話 十人目・彼はボクらの仲間です

かつて、神は一人の使いを地上に送った。

五百年に少し足りないほど、前の話である。

使いは混沌としていた世界に秩序をもたらした。

魔法に『フィールド』という条件を付け加えたのだ。

それまでは、誰もが世界に変革をもたらす危険な状態だった。

しかも思考という、とても不安定なものが、その原因だった。

考えた世界が実現する。

夢のような話だが、それを世界全ての人が実行すると、どのようになるか。

歴史は物語る。

大法壊を。

使いは『フィールド』をもって、その世界を抑止した。

二つ以上のフィールドがあって初めて思考が実現する。

その画期的なアイディアは、世界に一応の安定をもたらした。


しかし、その使いの子孫に、たまに生まれるのである。

フィールドを必要としない魔法使いが。


声。

声が聞こえる。

泣き声だ。

小さな小さな子供の泣き声。

胸が押しつぶされそうな、純粋な、とても神聖な、汚せない泣き声。

「この子がやったのかい?」

泣き声。

「大怪我だ。相手の子は何とか一命をとりとめたが、死んでもおかしくはなかった」

泣き声。

「そうか…この子は先祖返りなんだね」

泣き声。

「どうしましょう、この子は生きているだけで、その存在が、罪になる」

泣き声。

「殺すか」

泣き声。

泣き声。

泣き声。

「まってください、姉が、この子の姉が、この子を救います」

「たしか、魔法をすべて無効化する力を持った子だったね」

「この子と、その姉が常にそばにいれば、この子の魔法は発動しません」

「ただの子供として生きられるんです」

「だから―――」

「姉に救われたな」


それから、姉は常に僕のそばにいた。

どんな時も。

楽しい時も、

苦しい時も、

悲しい時も、

嬉しい時も。

僕は笑った。

姉がそばにいてくれる。

ほかの誰もいらない。

簡単に死んでしまう、ほかの誰かなんていらない。

僕は笑った。


半年ほど前に、すべては壊れた。

父が言った。

もう一人、兄がいると。

この学園に入学するらしい。

姉は、その兄に希望を見出した。

何の希望かは知らない。

教えてもらえなかった。

僕は一人になった。


兄の存在は、また違うところで、僕に希望をもたらした。

これもその時、父が言った。

世界律の変換方法があること。

それを実行すれば、魔法をこの世界から消すことさえも可能だということ。

しかもその実行方法は、僕の力と姉の力を合わせたものだって、聞いた。

つまり、僕の力を大きくし、姉の力を機械で実行できるようになれば、世界は変わる。

変えられる。


しかし、実行には大変な困難が付きまとった。

姉の力を機械で実行することは難しかった。

自分の力を増幅することは、なんとかできた。

とても巨大な装置が必要だったが。


方向性が変わった。

自分の力があれば、世界を支配できる。

世界律を変えるのではなく、世界そのものを変える。

実行した。


失敗した。


「目覚めたか」

「まーちんっ!!!」

目覚めると、二人の兄妹がいた。

武人兄と、愛子姉。

「やってくれたな、世界征服」

「失敗したけどね。せめて学園をつぶそうと思ったんだけど、ここ保健室だね」

白いカーテンに、薬品のにおい。

大央部学園の保健室だ。

「学園は無事か、ちぇ、全部阻止されたー」

「そーでもない」

答えは魔人の腹のあたりから聞こえた。

「……鳥?」

「テレビ見ぃ」

そこには、空中戦艦が映っていた。

「生放送だ」

「これは……」

その空中戦艦は明らかに墜落中だった。

船首を下げ、この学園に落ちようとしている。

その船首にはたくさんの人が、群がっていた。

皆で墜落を阻止しようとしている。

「馬鹿な」

「ホント馬鹿な映像だ」

そこにはたくさんの生徒だけではなく、いろんな国の外人も映っていた。

「あの国は、この学園の敵だろ!?なんで、墜落を阻止してる?」

「こいつの国は立場が微妙で手出しできないはず」

「それも国を代表するような、大魔法使いだって見受けられる!」

「こんなことしたら」

国際問題じゃすまない。

言おうとして、武人がさえぎった。

「命を守るため」

「この学園は確かに国家間の勢力図に影響を及ぼす」

「下手したら、戦争問題になる可能性だってある」

「だけどそれ以上に」

武人。

「命は大事なんだ」

「この学園にアレが落ちれば、この国に住む何万人もの人が命の危険にさらされる」

「直接的でも、間接的にも」

「だから、みんなが頑張っているんだ」

「まーちん」

愛子。

「行こ」

「だけどっ」

「お兄様が待っている」

「あんな奴は―――」

「きっと何とかしてくれるよ……全部」

それが、愛子姉が見出した、優希への希望―――。


「吹っ飛ばすわけにはいかない?」

「その手もある。だけどなるべくなら」

優希と十六夜は、たくさんの魔法使いの中心で頑張っていた。

たくさんの、たくさんの人が支えてくれる。

自分の利益は後にして。

ただ、みんなを救うため。

嬉しかった。

「壊さない方向で」

十六夜は一時的な物言いで言っているようではなかった。

「僕は詳しいことは知らないんだが―――必要なんだろ?こんな装置が」

「まあ、多分、本番にこんなのあればいいかも」

十六夜が言葉を返す。

「僕にはその『本番』が何を意味しているのか知る由もないけど」

詳しくは優希も知らない。

ただ来年の二月末、時期的にそのあたりが本番だ、とニアが言っていた。

「この装置を完成させるのに、あの男、魔人は僕に助力を求めた。癪に障ったから、魔人用じゃなく真田用にチューンさせてもらった」

「それで力が湧いてきたのか」

「いつか必要になるんだろ?」

優希は頷いた。

「じゃあ、止めよう」

「でも…」

正直、力の限界が近かった。

瞬間移動を何度もして、しかも先ほど魔力放出という無茶をやったばかりだ。

そう言えば時縛りも何度かした。

光弾の数は数えきれない。

「くそっ、このままじゃ」

体力は限界値を超えようとしていた。

「ご、め…」

言葉を残し、優希は地上へ落下を始め、

「真田!」

しかし、落下地点はいやに高かった。

すぐ地面だった。

いや地面ではなく。

巨鳥。

その背中。

「まったく、最初においちゃん殺しときゃ、こんなことには、ならんかったのに」

ネガティブ鳥。

成長してる。

もう豚の面影はない。

「うるさい、おまえの意見は全部却下…だ…」

優希は気を失った。

「魔人はん、いいんやな」

「ああ」

ネガティブ鳥の背中には魔人も乗っていた。

「お前はキーだ。そして今、覚醒したその姿でこの戦艦と同化が意味することは、真にこの戦艦テルスが完成するということ」

「今、優希はんに調律されたこの戦艦が、この形で完成する。それはこの戦艦が優希はんのものになるってことや。いいんやな?」

「くどい」

「ん、分かった」

そして鳥は鍵となり、戦艦に同化する―――。



二学期が始まり、何日か経過したころ。

「新入部員でーすわ」

部長が、にぎやかに部室に入ってくる。

あいにくと、番長以下四天王は、修行の旅に出たまま帰ってきていなかったが、それ以外のメンバーはそろっていた。

「この時期に―――って」

「式臥魔人です、よろしく」

「よろしくー」

沙由理がマイペースで挨拶をかますが、ほかの二人はあいた口がふさがらない。

「なにか?」魔人。

「なんでもない」

観念した。

「よろしく、これからボクらは仲間だ」

「新しい仲間に祝福を―――ですわー」

「祝福を―――」

「ふんっ」

魔人はそれでも照れくさそうに、笑った。

初めて見せた、心からの笑いだった。


十人目がそろい、同好会は部活に昇進した。



その笑顔は、ただ一つの本当