第十三話 明後日・そして僕ら
翌日、優希は学校を休んだ。
一日中眠っていた。
徹夜して街中を駆け巡った結果だった。
明後日。
その日の朝は、いつも通り訪れた。
登校中。
「ユウちゃん、おおおおおおはよ」
いつもの史奈子のどもった挨拶。
いつものことなのに、いつもだったからこそ、優希は苦笑した。
「おはよ、ナデシコ」
学校。
「よう、優希」
「やあ、桜」
授業。
そこだけはいつもと違っていた。
天使がいない。
桜に休み時間に尋ねたが、天使の存在自体知らないといった。
ニアに言わせれば、世界のプロパティを変えて、最初からいなかったことにされたらしい。
名前ぐらいは聞いておけばよかった。
それだけが後悔だった。
放課後。
その存在を優希は待ち望んでいた。一番。
「お兄様っ」
「愛ちゃん」
「むぅ」
いつもの通り、愛子が優希に抱きつき、それを見ている史奈子がムッとする。
いつもの、いつもの日常だった。
しかし部活だけは日常というわけではなかった。
優希にも予測ができてなかった。
部活。
番長以下四天王が入部していた。
「新入部員よー」
相も変わらずの間延びした口調で沙由理。
「魔法でしかこの世界に干渉できなかった俺が普通に生活できるようになった礼だ。すまんな、こんなことでしか返せない」
番長の言葉。
以外と普通。
もっと、俺様俺様した人だと思ってた。
一番気になる、左手は普通の手だった。
これも魔法らしい。
「…」
地は相変わらず無口だった。
でも、番町の判断に反感は覚えていない。
簡単にそれだけは分かった。
言葉は話さないがわかりやすい、そんな存在だった。
「ダーリン、私をもらってー」
「ってボクー!?」
「む」
火は二番目に印象が変わった。
硬い男勝りの言葉遣いの人。
確か語尾が「なり」。
そんなイメージだったが。
なんか優希にべっとり惚れてる。
なんで?
また史奈子の悩みが増えていた。
「がっはっはっは、火も青春しとるのう」
風ってこんな豪快な人だっけ?
これまたイメージとしては、魔法で姿見えなくしてコソコソやる、そんなだった。
でも体の大きさから考えれば、態度もこんななのかもしれない。
とにかくでかい。
それが今日のイメージだった。
そういえば、またこの部活の身長率が増えた。
番長も地も風も、女である火さえも180越えだ。
沙由理と比べてそれは歴然とわかってしまった。
なかでも、風は2メートル近いだろう。
地も猫背だが、のばせばそれに匹敵するかもしれない。
だが一人だけ、一人だけ例外がいた。
その一人だけ背の低い彼が一番イメージ変わっていた。
「わたくし、女性と男性の関係には口出しいたしません。それはまったくの自由であり、自然なことなのです。人は、人は、健全であるべきなのだ―――」
水だ。
女の顔を殴ってもなんとも思わない最低な奴。だったはず。
なんか真面目になってる。
優希の内心。
あれ―――?生き返らせるときにプロパティいじり間違えたかな―――あれ―――?
ま、いいか。
いいのか優希。
部活は、新入部員紹介と優希がDDSフィールドを張れるようになったことを報告。
フィールドを張れるようになったこと、史奈子は自分のことのように喜んでくれた。
正直、嬉しかった。
そこで部活はお開きになった。
夜。
家の近くの公園で。
「俺が表に出る」
ニアが体の支配権を得た。
「さぁ、プロパティを書き換えろ」
一番大事なことだった。
ニアは言った。
優希のプロパティ書き換え能力は有限だと。
限りがあると。
はっ、
ほっ、
ふっ。
無理。今までどうやって、プロパティ変えてたのかさえ分かんない。
「空気のようなものだったからな、どんな難しいプロパティの書き換えも。お前にとってはな」
そうだったの?
「ふつう、主属神でもパスワードのかかった書き換えは難しい。というかできない。お前はそれを難なくやってのけた」
へ、へぇ。すごかったんだボク。
「だが、能力自体がなくなったとは考えづらい。そのうち戻るかもしれないし、何か無茶使いしないよう使用条件が必要になった可能性もある。本番にはまだ、10か月以上ある、ゆっくり考えるか」
本番?
「ああ、世界の運命を決める、本番さ」
???
それは優希が忘れている運命。
あの天使と出会ったときに、告げられた運命―――
愛子。
「石原、怪我はもう大丈夫なのですか」
「これでも過去、武人坊ちゃまに次ぐユピテルと呼ばれた私です。もう大丈夫でございます」
愛子のお部屋でのことだった。
夜遅くまで、習い事や勉強を終え眠ろうとしている時だった。
「これからいうことは、独り言です、石原」
「…」
石原は答えなかった。独り言ならば答える必要はない。
「お兄様、優希さまは本当にカッコよかった」
遠く、星空を窓から眺めながら。
「生き返ったとき、わたくし、本当に惚れそうでしたわ。お兄様に」
心も遠くに飛ばしながら。
「でも、それはできない運命」
かなわぬ恋心のうずきだけが、愛子がここにいることを教える。
「だって、あのお方は」
静寂。
石原も、ただ静かにたたずんでいる。
「わたくしの本当のお兄様ですもの」
静寂は続く。
ただそれを破るのは、愛子の悲嘆。
「優希さま―――」
静寂の中、静寂を破らぬよう、動く気配がある。
「おやすみなさいませ、愛子お嬢様―――」
静かな夜は、更けていく―――。
それは、静かに、静かに。