第十二話 番長・本当の力で
光。
光弾は番長を中心にした見えない球に弾かれるように消えた。
「ブリッツか、基本的な攻撃魔法だな。優希君、他に何か魔法を知っているかい?」
ブリッツとは、優希の放った光弾の名だろう。
優希自身知らないことだった。
会長の質問に、少し考え優希が答える。
「はい、瞬間移動と魔法放出です」
手の内すべてを明かすことには抵抗があった。
しかし敵は自分以上の魔力の持ち主。
そんなことも言ってられなかった。
「瞬間移動?光子体かい?」
「いえ、空間に穴をあけてその中を超速移動する魔法です。前に本で読んで知ってたんです」
会長が驚いた顔をした。
「空間に穴?この質量の足らない世界で?しかも地球の重力下?」
そこで今度は会長が考え込む。
「魔力で質量を補う?…不可能ではないがどれだけ莫大な魔力が………しかも地球の重力かで行う制御力……これは…」
「がぁぁぁぁぁぁぁっ」
番長の魔力がさらに膨れ上がる。
「ち、ちょっ、何かでかい攻撃が来ます」
「力押しだ」
「―――え?」
会長の一言だった。
「全力で魔力の放出を行いなさい。私も手を貸します。それで勝てる」
「でも番長の魔力はボク以上で…」
「大丈夫」
その一言は、彼女の一言だった。
「お兄様、大丈夫」
記憶に残る彼女の言葉。
つい昼間のことなのに、もう、だいぶん前のように感じる。
彼女を助けるんだ。
ボクを兄と慕って、信じてくれる彼女を。
「番長も全力で来る。こちらも全力で行くぞ!!!」
「はいっ!!!」
二人の声がハモる。
「DDSフィールド展開!!!!!!」
二人の周りの気配が変わる。
「番長!いやオリンポス十二神イレギュラーナンバー冥府の王、ディスよ。いまここに」
「全ての」
「決着を!!!」
「全っ開」
「魔力放出」
「いくぞぉ!!!」
「がぁぁぁぁっ」
三人も魔力一瞬均衡する。
静寂。
そして―――
大爆音!
放射線状に3人の魔力が放たれた。
光が番長と優希、会長の真ん中あたりでぶつかり合う。
その絶大な3つの力に大地が揺れた。
存在の弱いものから消滅していく。
木の葉。
小石。
コンクリートまで。
周りにある、存在をある程度消したところで3人の力が拮抗する。
「2人がかりでまだ…」
「さすがだな」
「がぁぁぁっ」
「うわっ」
番長の魔力がさらに膨れ上がる。
拮抗が崩れ始めた。
番長の力がわずかに、ほんのわずかに、しかし確実に押し始めた。
「なんてっ」
「あいつっ」「ニアッ?」
「本気だしてねぇな、優希一人で勝てるとでも…」
「てめぇらっ」
そこにぽつんと、3人以外の存在がいた。
「水っ」
「へ、へへ、この女の命が惜しければ今すぐ魔法を止めるんだ」
「愛ちゃん!!」
「確実に絞めとくべきだった…」
会長が頭痛そうに目を細めた。
そこには四天王の水がいた。
愛子を片手に、喉に水でできた刃を突き立てている。
「お兄様達、気にしないでください」
「愛ちゃん!目覚めて…」
「こいつっ黙れ」
水が愛子の顔を殴る。
「女だぞっ」
「気にしないで」
「お兄様、わたくしは幸せでした」
「愛ちゃん?」
「だって、本当の家族―――」
そこで言葉は止められた。
番長がもうひとつの魔法を放った。
その魔法に水と愛子が飲み込まれる。
「愛ちゃん?」
「あいちゃんっ」
優希が叫ぶ。
愛子は光の中に消えていた。
跡形もなく。
「馬鹿な、愛子には魔法のキャンセル能力があるのに、な、なぜ?」
会長が驚く。
しかし優希には叫ぶこともできなかった。
事実が事実として認められない。
愛子が消えてしまったことに気付けない。
やっと、そのことが、愛子が消えてしまったことに気付いたときにはすでに番長の魔力が眼前にまで迫ってきていた。
「番長…」
「なんだっ?この魔力はっ!?」眼鏡ニアが叫ぶ。
「優希、お前にはまだこんなっ」
ニアの声が声になるか、そんな瞬間。
優希の魔力が爆発した。
その力はすべてを、世界のすべてを飲み込んだ。
「そうか私の使っていた魔力は優希のほんの一部―――」
「この魔力、人の域を超えている。間違いなく史上、後にも先にもない魔力値だ。そうか、これが―――」
「―――選ばれた理由―――」
「左手が光線銃?こんなものが仕組んであるとは―――というか大法壊前の技術だぞ。今の技術力では、こんなもの…」
「こいつ、未来人って言ってた」
優希がぼそりという。
すべてが終わっていた。
番長は暴走した優希の魔力の前に倒された。
決着がついていたのだ。
多大な犠牲を払って。
この戦いで3人が死んだ。
水。
番長。
そして愛子。
「左手が光線銃だなんて、どんな未来だよ」
「未来だから―――まだ決まってないから、こいつの存在は不確定だった。なのにボクは―――」
「優希君」
「こいつの存在を確定してしまった。確定さえしなければこんな光線銃が使えるわけなかった。愛ちゃんに魔法キャンセル能力があるのなら、こいつは永遠に愛ちゃんに手を出せなかった―――」
「それが愛子をさらった理由か……唯一の不確定要素だったんだな、番長にとって」
ニアはふと会長に意識を移す。
会長は冷静に状況を判断しながら、しかしやるせないのだろう。
涙ぐんでいた。
妹を失って、笑ってられる人なんていない。
「妹は、愛子は幸せだった。そう思おう、優希く―――優希君?」
「生き返らせる」
「―――は?」
「プロパティを書き換える」
「お前―――」
珍しかった。
珍しく、ニアが本気で怒鳴った。
「馬鹿言うなっ、なんで人が生き返らないと思うっ、神でもっ、主属神でも難しいからだっ。いったいいくつのプロパティを書き換えなければならないと思う!百や千、万じゃきかないんだぞっ」
「でもやる」
「お前の能力、プロパティの書き換えは有限なんだ。限りがあるんだ。神はそんなことに使わせるために、お前にプロパティを書き換える能力を与えたわけじゃ――――――」
「お前」
ニアが気付いた。
優希のもう一つの決心に気付いた。
「3人とも生き返らせるつもりだな?」
「うん」
「跡形もなく消えた人間を2人、さらに1人生き返らせるなんて―――」
「わかった―――わかった。せめて体の残っている番長は私に生き返らせろ。それが条件だ」
「ニア?」
「まったく、朝までかかるぞ―――」
「うんっ」
雨は、もう上がっていた。
遠い朝も、そう長くなかった。
「優希君?」
「会長、明日からはまたいつもの日常を―――」
長い夜はやっとその終わりを告げた―――。
