あのクリスマスイブの夜


大阪のオフィス街の灯りに

雪が揺れていた。



 信号待ち、行き交う車と
コートにマフラーを揺らす人々。

 吐いた息に空を見上げると
雪が、落ちてくる。

 私は、いろんな目的の人で
ごったがえす、JR大阪駅から
環状線に乗った。

 片手には、リボンのついた
彼女へのプレゼント。

 クリスマスイブ、別段に
特別なものに感じない二人は
約束などしていない。

 でも、やはり相手の事を
考えると、プレゼントでも買って
夜はそのマンションに訪ねたい。

 私も、日中の激務から開放された
心の隙間を癒されたかった。

 はきだされるように電車を降り
駅をでて、夜道を彼女の住むマンションへと。

 ゆっくり・・・歩きたい。
いつもはせからしく急ぐが

彼女と部屋の温もりへと

向かう喜びを

噛みしめていたかった。



 彼女の部屋の前についた。
ベルを数回押した。

 (いないのかな?)
なんとなく、新聞受けに手を突っ込んでみた。
暖かい空気が流れ出てくる。

 (寝てるのだろうか?)
部屋の灯りはついていたはず。

 とりあえず、

私は待つことにした。

どっか、コンビニでもいってるのかも知れない。
 迷惑になってはいけないので
脇にある非常階段へ入り、腰を降ろした。

 雪の降る外に比べればましだが
やはり寒い。缶コーヒを買ってきて
飲み干し暖をとり、開いた缶へ
タバコを落とす。

 1時間・・・2時間・・・3時間・・・
終電はなくなった。

だが、彼女が帰ってきた

気配はない。

 合い鍵は、持っていない。
なんだかんだと、貰い忘れていた。

 もう一度、ベルを押した。
またしばらくして、ベルを押した。
時間だけがどこかに、流れているようだった。
新聞受けに手を入れると、まだ、生暖かい空気が・・・。

 さっきから嫌な予感が頭をよぎっていたが

「信じること」を

強く思っていたから

全て、己の弱さと否定したいた。

 彼女とは、半年前に友達の紹介を
きっかけに交際がはじまった。

 まぶしかった。彼女との居心地は
とても良かった。

 私は、街を歩いた。

相変わらず雪が

コートに落ち、消えていく。
プレゼントを包んだ包装紙が
濡れてはいけないので、コートの中にしまった。

 帰ろうか・・・

通り過ぎるタクシーの

空車ランプを見るたびに、

そう思った。


でも、何故だか帰れなかった。
彼女を確かめるまでは。

 何度も彼女の部屋の

前までいっては

ベルを押せども、

結局、朝を迎えてしまった。


 昨夜の雪はもうなく、

夜明けの太陽がまぶしい。

 

 疲れた・・・

私は非常階段でうずくまった。
つま先が、じんじん冷える。

 (もしかして、俺がここを離れている間に・・・)
帰ってきたのかも知れないと思い、ドアの前にたった。

 ベルを押そうとしたその時・・・。
ドアノブが、下がった。

私はとっさに、

掴んで開けようとしたら

逆に、閉じようとする力。
 私は、強引に引っ張り開けた。
結果・・・中からスーツ姿の男が出てきた。

 私はその男に云った。

「おまえは、誰だ。」


その男はメガネをかけ、

チリチリ髪の毛で

顔に肉がついて、

決して男前とはいえない

口を開いた。

「○美さんの、お兄さんですか?」

あははは。

「恋人だよ。」
 私は、不思議と冷静だった。
相手は身構えて緊迫したような
面立ちだった。

 ただ、私は低く冷めた声を

発っした。

 「おまえは誰だ。」

俺は再度、聞いた。
「恋人だ。」
私はその返答に、軽く首をひねった。

 議論してもしょうがない。
「帰れ。おまえがいる場所じゃない。」
男が背にする階段を軽く指さした。

 男は、何もいわず帰っていった。
部屋に入った。
彼女は、混乱に落ちるように
狭いワンルームの部屋を走り
ベッドへうつ伏した。
 
 「私・・・もうあなたと付き合えない!」
別れる、と。

 私は、ベッドで泣きじゃくる
彼女の姿にも冷静だった。

「バカ、俺はおまえを愛してる。」
「だってっ、こんなんじゃ付き合えない。」
私は、彼女を抱き起こした。

そして、音がでるほど頬に

ビンタした。


女性に手をあげたのは生きてきて初めてだった。


 彼女の時間が一瞬とまった。
「俺たちは、これからも付き合っていく長い人生の中、こんなことがあるかもしれない。」

でも、それを俺たちは早く経験しただけだ。
俺は、おまえを愛してる。それだけでいいだろ。
 それから一日中、彼女の体熱の中
ひたすらベッドの中眠った。

やがて時は流れ
その彼女とも別れたが・・・