「なんだこれは?!」

 

思わず口にしてしまった。

大好きなロックバンド、"マシリト"の「大東京音像 (DIE TOKYO ZONE)」を再生した瞬間、

そう呟いたのを覚えている。

 

 

前作から実に12年振りとなる、オリジナルアルバムがリリースされた。

そこには期待値、予想を遥かに上回る音世界で塗れていた。

 

今作はフィジカル版のみ、通販限定での発売らしい。

CDショップに向かうワクワク、購入してから帰宅するまでのウキウキ感は無いが、

このご時世だから仕方がない。

かといって、サブスクでアッサリ聴けちゃうのも味気が無い。

何はともあれ、到着が楽しみだ。

 

注文から数日後、CDが届き、封を開けた。

 

まず、ジャケがデカい。(!)

アートワークも完全にメタルです。本当にありがとうございます。

DVDサイズのパッケージにCD、歌詞とライナーノーツ、写真が収められたブックレット。

他にはポストカード、ステッカーが入っていた。初回限定っぽい。嬉しい。

 

ライナーは中込智子さん。勿論、聴く前に熟読した。

内容もかなり踏み込んでおり、印藤さんとの対談形式で掲載している。

洋楽の日本盤はほぼ必ずライナーノーツが載っているのだが、

ここもニッチというか、分かってるなと。

 

ようやく、満を持して、自宅のモニタースピーカーで聴く。

勿論音量は大き目で。ロックの基本である。

ジョンフルシャンテも言っていた。

 

ここからは曲の感想を率直に綴っていく。

 

 

・「ハダシノ」

 

出だしからダークなトーンの曲。

以前だったらシングル、リード的な曲が頭だったのだが違う。

いやぁ、期待を裏切ってくる。だがそれが良い。

相変わらず一聴した歌詞は難解だが、「口に出して気持ち良い」歌詞。

歌詞カードの読み応えがある。

 

クレジットを見たらアルカラの稲村さんがヴァイオリンで参加してるみたいだ。

メンバー以外の、アディショナルな楽器が入っていると違和感を覚えるが、

逆に”新章開始”と捉えることができるし、

リスナーとの駆け引きを楽しんでいるようにも見える。

 

 

・「Secret Messiah」

 

いや、タイトルよ。

80年代HR/HM直系ナンバー。

リフ、ギターソロもゴリゴリでメタリックな速弾きのバーゲンセール。

マシリト流のメタルマナーとも取れるし、キャリアが無いと許されないアプローチ。

歌詞は現代のSNSを風刺したような、かつ印藤節溢れる病み(闇)リリック。

これもピアノやハプシコードの様な音が入っている。

今のマシリトってこういうモードみたいだ。

ライブでソリッドなバージョンも聴いてみたい。

 

 

・「低空非行2020」

 

これは既出の曲だが、ミックスを差し替えた部分があるようだ。

シングルと比較すると音が増えている。

所謂普通のアルバムだと、掴みとして1曲目に配置するところ、3曲目に置いているのも興味深い。

それらを踏まえて当時聴いた印象とは全くの別物。

前の曲からの繋ぎ、曲間も気持ち良い。

ここまでで一つのセクション、レコードだとA面を聴き終えた印象。

 

 

・「EDEN feat.あんびるはるか」

 

B面、後半セクション開始の曲。

続いても既出だが、ポエトリーリーディングや

デュエットも入り、こちらも雰囲気がガラッと変わっている。

実はこの曲が作品の独特な読後感を担っている。

中込さんの言葉を引用するならば、「冷静な絶望」。

今作は少ない曲数ながら非常に練られた構成である。

 

(以前、上記2曲のレビューも書いたので併せて読んでみてほしい)

 

 

・「団地の下で落ち合おう」

 

1分半のフォーキーなソロ曲。

位置付けとしては次曲のインタールード的な役割なのだろう。

しかし、全貌は映画で例えるなら「エンディングのスタッフロール前ラスト5分」

つまり結末であり、核心。

無駄を削ぎ落とした歌詞で、真っすぐに刺さる。

コアファンも思わずニヤける作詞の妙が満載。

加えてアコギのアンビエントなアプローチが切なさを際立たせる。

 

 

・「青空高円」

 

先の続きで言えば、大円団で終わるのが定説。

なのだが、やはりマシリトである。

どこまでもリアルに切り取り、言葉と音にしてしまう。

秋の少し冷えた、落ち葉の拡がる道を、当てもなく歩く。

そんな景色が見えた。

最後のサビで泣いていた。

 

「諦観しながらも前を向いている」

この作品で示したバンドのアティテュードに感銘を受けた。

一貫して変わらないスタンス、カウンターカルチャーを持ち、

日本では稀なレベルミュージックを体現した”ロックバンド”マシリト。

いつまでも俺の好きなロックバンドでいてください。

 

これは20年代のマスターピースであり、彼らの死後、論文を書かれるべき大名盤である。

 

ありがとう、今年もなんとか生き延びれる。

 

 

文・ヴァイオレンス藤﨑。(sunnysider/Rue)