BLです。
ご注意ください。
「しょうちゃーーーん!」
バタバタと勢い良く走って来るキミ。
それに手を振って応える。
「ごめん!待たせちゃった?!」
「待ってないよ、大丈夫
俺もちょっと前に来たとこ」
なんて、ホントは30分前に着いてたけど
今日行く場所の予習がしたかったから
待つのもあっという間だったのは
心の中だけで思っておく。
「そっか!よかったぁ…
あ、今日はよろしくお願いしますっ」
「ハハハ、部活始める時みたい」
「あ、クセで(笑)」
こないだの練習試合は
雅紀が大活躍して見事勝利を収めていた。
だから今日はお祝いも兼ねて遊びまくろうって
決めた1日。
ぶっちゃけ、ワクワクして朝早く目が覚めてしまうくらい楽しみにしていた。
まるで小学生の遠足気分。
なんでこんなに楽しみだったんだろう?
ふと疑問に思うくらいに今日という日を
待ち望んでいた自分がいた。
「そんで、今日どこ行くの?」
「あ、あぁ えーと、遊園地に行こうかと」
「やった!遊園地 俺好き!」
「そんな気がしてた(笑)」
「え?そうなの?しょうちゃんスゲー」
キラキラの笑顔が今日の天気の良さと
合間って眩しすぎるよ 雅紀君・・・・
満面の笑みにドギマギしていると
「じゃ、早くいこ!」って手首を掴んで
走って行く雅紀に
「慌てなくても遊園地は逃げねーから」
とか、おかしな発言をしてしまった。
なんだこれ・・・
なんか、デートみたいじゃん
今の俺はきっと頬骨が上がって
鼻の下が伸びているはず・・・
まずい・・・
慌てて真顔になる。
こんなあり得ない気持ちが出てきたのは
あの試合の後がキッカケだった。
あの日、結局最後まで
ニノは試合を観に来なかった。
雅紀は前半は集中していて
気がついてはいなかったけど
後半が始まる前に観覧席にニノが居ないのを
気がついたんだろう・・・・
後半の頭は急にシュートが
決まらなくなってしまった。
それを見て思わず
「雅紀!集中!」なんて俺が叫ぶ程で
その声が耳に届いたのか
また調子を取り戻していたけど
顔から笑顔は消えていた。
知らない奴が見ればこのチームのエースは
雅紀なんだろうと思うくらいの活躍を見せて
練習試合は大差をつけて勝った。
試合が終わった後
「お疲れ!おめでとう!」と言いに行くと
雅紀からまず出た言葉は
「しょうちゃん、カズ見なかった?」
だった。
「ぃや、俺が周りを見た感じでもニノの事は
確認出来なかったよ・・・・」
「そっか・・・・どうしたんだろぅ
あんなに見るの楽しみにしてたのに・・・」
試合に勝った嬉しさよりも
見に来てくれなかったニノに
落ち込んでしまった雅紀に
かけてやる言葉は見つけられず
思わず・・・・
「今度の休み空いてっか?
ご褒美期待してろよな!」
「え?・・・あ、ぅん、ありがとう」
そんな勢いで決めた約束だった。
遊園地のパスポートは事前に前売りのチケットを用意していて、入場ゲートでそれを渡すと雅紀はビックリして喜んでくれた。
「すっげーー!こんな豪華なご褒美なの?!
しょうちゃん、無理すんなよ?俺出すし!」
「あー、いいよ。
コレはもらったチケットなんだ」
って、ごめん。嘘です・・・
遠慮させたくなくてつい口から出てしまった。
「え!そうなの?」
「おーだから気にせず楽しめよなー
俺のご褒美は今日の昼飯な?」
「わぁ〜何から何までありがとう!」
「よしっ、じゃあ何から乗る?」
「ジェットコースター!」
「いきなり行くねぇ〜」
この時
雅紀が楽しんでくれる事ばかりを考えていて
俺はうっかり大きなミスを犯していた・・・
実は・・・・・
俺は、高所恐怖症だった・・・・・・
「おおおおおおおぉぉ・・・・」
「やっぱコレは必ず乗りたいよねー♪」
ひたすら絶叫系を攻めて行く雅紀に
あまり絶叫系も得意な方じゃない俺は
既にグロッキーになりつつあった。
そんな俺の状態に気がついてくれて
優しめの行こっかと連れて来られたのは
観覧車・・・・
しかも日本で3番目のデカさ・・・
さっき予習した時に何気なく読んでいた。
・・・・そ、そうだったぁ
遊園地にも高い所、あったよねーー・・・
「しょうちゃん!これ乗りたい!
俺ね、観覧車が遊園地で1番好きなの」
「へ、へーー・・・なんで?」
「んーーなんでかぁ・・・何でだっけ?」
「ぶ!なんだょそれ(笑)」
「何となく好きなの!いこ!」
「は、はーーい・・・」
雅紀が大好きなら
俺、頑張るよっ
グッと気持ちを奮い立たせ
物心ついた時から避けてきた乗り物に
いざ出陣!と乗り込んだ。
乗ってみると
結構静かで揺れも少ない。
まだテッペンに行く前は
だいぶ余裕がある事に気がついた。
しかも、こんな至近距離で向かい合わせだ。
あまり外を見ない作戦として向かいに
座っていた雅紀をジッと見つめてみる。
「ん?しょうちゃん?どうしたの?」
「い、いゃ・・・あー、えーと
おまえが楽しそうで良かったなぁって?」
「え?なに急に(笑)すっごく楽しいよ!
てか、そんな見られたら恥ずかしいんだけど」
「えーー、いやさ・・・おまえ、せっかく試合に勝てたのに、元気無かったから今笑ってて良かったなぁと・・・・」
「あーーー・・・ぅん、そうだよね」
そう言うと、黙ってしまい
影を落として俯いてしまう雅紀に
やっべぇ地雷踏んだ!と慌てた。
「あ!別にそのっ!
・・・深い意味はなくて」
「ふふっ・・・・ごめん、大丈夫だよ?
ありがとうしょうちゃん、俺を元気にしてくれようと一生懸命考えてくれてたの、ちゃんと分かってるから」
その、一瞬で見せる笑顔も悲しげで
俺に心配をかけないように
無理して笑っている雅紀に胸がツキンと痛んだ。
「あの後、さ・・・会ったの?」
たまらず、ずっと聞きたくても
聞けなかった事を聞いてしまった。
「んーーー?・・・カズと?」
「う、うん・・・」
「会えてない・・・
あいつ、俺の事避けてる」
「え、なんで?」
反射的に疑問を投げかけてしまった事を
失敗したと思った。
更に眉を下げて、無理して笑おうとするけど
今にも泣きそうな顔だ。
「俺にも分かんないょ・・・」
消えそうな声でポツリと呟いた。
「雅紀・・・・」
黒目が多い瞳には
水分がたっぷりと含まれていて
今にも溢れそうに揺らめいている。
突然、背を向けてしまった幼馴染に
どうして良いのか分からない感じなのか…
でも、俺にもニノの気持ちは分からない
お互い黙ってしまって無言の時間が流れた。
さっきまでの楽しそうな声が嘘のような程
小さな声で話し始めた。
「あのね、俺さ・・・最近、時々なんだけど
あいつの事を疎ましく思う時があるんだよ」
突然、告白するようなその言葉を聞いた時
何故だか心が少し躍った自分が居た。
一瞬だけ、チャンスだとも思ってしまった。
でも、それは何に対してチャンスだと
思っているんだろう?
突然 舞い込んできた気持ちに
急激に動く心が
自分ですら明確ではなくて
ただ、思ってしまった事に対しての
罪悪感を強く感じたから
ドキドキしていると思っていた。
「疎ましい? ・・・・
でも、嫌いなわけじゃないんだろ?」
「嫌いじゃない・・・・けど
時々、イラついてるような気持ちになって
でも、なんでなのか自分でも分からなくて」
今だって凄い真剣に相手の悩みを聞いてはいるけど心は漫ろで集中出来ないでいる。
なんだろう・・・・・
この感情は一体なんなんだ?
でも、そう・・・
ワクワクが止まらない。
目の前の項垂れている頭に手を伸ばした。
旋毛が見える頭をゆっくりと撫でる。
俺の行動に反応して目線だけ上げ
目と目が合った瞬間
全身がゾワッとした。
そっか・・・・・
なんか、分かったかもしれない
俺は
俺の、気持ちは・・・・・
その気持ちに気がついた瞬間
勝手に体が動いた。
至近距離まで近寄り
頭を撫でていた手を
頬に手を添えると
それに反応した雅紀は上を向いた。
そのまま
覆い被さるように
雅紀の唇に
自分の唇を重ねていった・・・・
いつの間にか
観覧車は
テッペンまで来ていた・・・・