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「別れ」① 二宮side
一個前で言い忘れてました。
これから暫く過去編が続いちゃいます。








「なに、してるの?」




智と出会い、話すようになったのは相葉さんと翔さんより前の話しになる。

もちろん存在は知っていた。
真彦さんの束縛と、周りからのイジメで疲弊した日々にある日、急に話しかけられて物凄く驚いたんだ。


だって、彼が失語症だと思っていたから。


普段から1人でいる事が多い印象と、
誰かと話している記憶が無かったので
きっと喋れないんだと思い込んでいたんだ。


だから話しかけられた時は
「あんた、喋れたの?」しか言えなかった。



「うん。ていうか、危ないよ?」



その言葉の意味が一瞬わからなかったけど
そのまま智は僕の方まで歩いて来て、
いきなり腕を掴んできた。


「うわっ」


そこで、自分がもう少しで山道の
崖になってる所まで来ていた事に気が付く。
あと一歩踏み出したらそのまま
落下していただろう。

1人になりたくてぼーっと歩いていたら、
いつの間にか森の中まで入って来ていた。


「あれ?なんでこんなとこにいるんだ?」

「…もう少しで死んでたよ?」


ニコッと笑いながらも、
腕はしっかり掴んでくれていた。


「ありがとう…」

「うん、気になって付いて来てみて良かったよ」

「ホント…ぼーとしてたけど、
  こんなとこまで歩いて来てたんだ…」


何処か、他人事のような言葉が出て、
自分の夢遊病みたいな行動に愕然とした。


「大丈夫か?」

「…う…ん、大丈夫。」


言葉につまってなんとか言った言葉も、
ふいに智が頭を撫でて来たから急に涙が出て止まらなくなり動揺する。


「大丈夫じゃ、ないね?」


そう言って泣き続ける僕の事を暫くずっと
あやすように背中を撫でてくれた。




智は動物的本能で動くようなヤツで、
ちょっと僕の様子がおかしいと感じると
そばに来て何も言わずに一緒にいてくれるようになった。

お互い会話も無く、寄りかかって何もしないでただぼーっとしてる時間が心地良かった。



あの、秘密基地を教えてくれたのは智だ。


施設の裏の森は、迷い易いから奥まで行ったら帰って来れなくなるよと言われていたので、施設の子供達は怖がって入って行こうなんてヤツは居ないと思っていた。


でもそんなの気にせずにどんどん進んで行く智を見て少しカッコ良いな、なんて思ってしまった。


ある日、疑問だった事を聞いてみる。



「あのさ、なんで僕と以外喋らないの?」


「ん?…必要、ないから?」


「ええ…そーかな?みんな
  智が喋れないコだと思ってるよ?」


「ふーん…」


「ふーん。て…
   困ってないならいいのけど…」


「お前と話せれば充分だよ」


「…そっか」


その言葉は単純に嬉しかった。
智の方が年上だったけど、ほとんど変わらない歳の友達はココに来て出来たのは初めてだったから。


けど、ある日…
智と仲良くなった事に真彦さんがこう言ってきた。


「なんで?智君とばかり仲良くしてるの?」


「…え?」


「寂しいなぁ…和也が智君に取られちゃう」


「な、何言ってるの?真彦さん…」


「……ん?」



ただ、微笑んでいるだけの真彦さんの顔が
今でも忘れられない。
その目は笑っていたけど冷え切っていた。


その視線に全身が凍り付いたように動けなくなった僕を置いて、その場から居なくなった真彦さんがその後した行動に…



もう、自分は彼の物として
生きていくしかないと思わされる。





智……ごめん……全部俺のせいだ。