明日の記憶
「遭遇」③ 松本side






「野球?」



「うん。前に住んでた所には少年野球チーム
   があってさ、そこに少し入ってたんだ。
   野球やった事ある?」


「キャッチボールならやった事あるけど」


「ホント?それであんなにコントロール 
    あるのかー」


「でも野球って2人じゃ出来ないよね…」


「うん、だからさ、早く友達沢山作って
   みんなで野球やりたかったんだよね…」




けど、最近その思いも少し諦めつつある。


だから自然と声のトーンが落ちてしまうのは
どうしようもなかった。




「でも、それも暫く難しいかもね」




自分の表情と言葉を聞いたカズは
心配そうに見ていた。




「……潤君なら、すぐ出来るよ」



「…でも、アレから友達になってくれた
    のはカズだけだしさ。」




カズはそれを聞くと更に悲しそうな顔をした。




「…俺と、一緒だからだよ?俺と一緒に
    いると、潤君友達増えないよ…」



「なんで?カズ、めっちゃ良い奴じゃん!」



「ありがと…でもね、孤児院にいる奴なんて
    みんな相手にしたく無いんだよ」



「そんな…」



「潤君が、俺から離れたら友達増えるよ?」




カズは優しい…。



カズの優しさが言ってくれた言葉だ。



でも、なんだか見捨てられたようなとても悲しい気持ちになった。



「それは絶対嫌だ!
   カズが居なきゃつまんないよっ」



縋るように否定した。


自分から居なくならないで欲しかった。



「潤君…ありがと」



カズは照れたのか下を向いて顔を隠したけど、耳まで真っ赤になっていた。




「あ、でも…ウチの奴らでもいい?
   そしたら何人か連れて来るよ」


「ホント?」


「うん。あ、潤君を殴ってたあいつらは
    連れて来ないけどね」


「う、うん」


「んふふ…もうすぐね、退院してくる奴
    が居てさ…そいつも野球好きだから
   一緒にやろう」



キラキラとカズは嬉しそうに笑って言うからきっと退院してくる奴とはとても仲がいいんだろう。




何故か、胸がチクンとした。








その後、ホントにカズは10人ほど連れて来てくれた。みんな施設の仲間だと言った。



そこに、カズが退院してくると言っていた
雅紀も居た。



そいつは野球に詳しくて上手くて、いつもニコニコ笑ってる明るいヤツだったからすぐに仲良くなれた。




「なぁなぁっ!今度さ~松潤も         
    あそこに連れてってやろうよ!」




3人で遊んでいると突然、雅紀が思いついたように言い出した。




「あそこ?」


「うんっ俺たちの秘密基地!!」


「良いの?」



仲良くなったばかりでそんな大切な場所を
教えて貰えるのかと嬉しくなる。



「良いんじゃない?俺も潤君なら良いと
    思うよ」



「じゃあ今度翔ちゃんにも会わせてあげるね!」



「翔ちゃん?」



「うん。今はさ、里子に出て居ないけど
    良く遊びに来てくれるんだよ」



「二つ上だからお兄ちゃんみたいなもん
    かな?」



「あ、でもね!翔ちゃんに会ってる事は
   内緒なんだ!」



「会っちゃダメなの?」



「うーーん…里子の親がうるさいみたい
   なんだよね」




その時は特にその事には気にも止めずに
ふーんと思っただけだった。



秘密の場所を教えてくれる、
それが嬉しくてしょうがなかったから。




実際に翔君に会うと
とても頭の良い人だと思った。



でも、一緒にふざける事も出来るし、
2人が翔君を慕う気持ちが良く分かるくらい良い奴だった。




秘密基地はカズ達が住んでいる児童施設の
裏の山側に歩いて20分くらいの場所にあった。



そんなに奥深くない洞窟みたいな穴があり
そこを拠点としていろいろと目隠しや
見張り台を作っていて子供なりに
基地っぽくしていた。



ひと目見て気に入り、
野球をしない時はそこで日暮れまで
遊ぶようになっていった。



秘密基地を知っているのは俺を入れたら5人だけでカズと雅紀だけしか孤児院には残っていないと教えてくれた。



翔君は会ったけど残りの1人は?
と聞くと急に雅紀がはぐらかそうとした。



あまりにもわざと過ぎるから
カズは苦笑いをしていた。



きっとあまり聞いてはいけない事なんだろう。



「話しにくい事なら良いよ。ごめんね。」



と言うと、2人共申し訳なさそうな顔をした。




こういう時に、やっぱり自分はよそ者なんだって感じてしまう。




結局、別れる最後まで
5人目が誰かは分からないままだった…