明日の記憶7
「事件現場」
松本side
あの、大野主任のパソコンを
盗み見てしまってから数日…
モヤモヤと燻る気持ちはあるものの
この感情を言葉にする術がない為、
特に何も聞いてはいなかった。
それに実際聞くとして
なんて聞けばいいのか?
その学生証の人物を知っている気がする…
でも誰だと言われても上手く答える事は
出来ないです。
なんて言ったら余計ややこしくなるのも
分かっている。
でも自分の頭の中に引っかかるものが
あるのも事実。
だからずっと気になり続けていた。
「着きました。」
「ん…。」
でも今はその事を考えている場合ではない。
俺は今、久々の…
事件現場に立っている。
現場を離れてから約1年、
久しぶりの緊張感に気持ちは高揚していた。
「よぉー!ご苦労さんっ」
「岡田さんお疲れ様です。」
既に来ていた岡田さんが出迎えてくれたので更に緊張が増した俺と、俺とは違い大野さんは普段と全く同じ眠たそうなテンションで挨拶を交わす。
「おー…」
「大野~…眠いのか?
もう少し気合い入れてくれよ~」
「これでも入ってるの知ってるだろ?」
「お、入ってるのか?知らなかったよ」
これが2人のいつものやり取りなんだが
周りのピリピリとした緊張感と違い
緩い会話をしている2人の大物さに驚く。
2人は気付いてるのかわからないが
周りからの視線が痛い…
それでもマイペースな2人は気にせず未だココが現場だと言うのも気にしていないような会話を続けていた。
「あ、あの…」
思わず声を掛けると岡田が気付いて
ついて来いと言われる。
大野と一緒に岡田の後をついて
ある建物の中に入っていく。
この建物は以前工場だったんだろう。
中に入るともう、なん年も使っていないだろう
ほとんどの機械は錆び付いていた。
建設関係の工場だったのか、足元には木屑が落ちていた。
大きな作業場を通り、更に奥に進んで行く。
事務所と書いてある部屋に入っていくと
沢山の鑑識が作業をしていた。
鑑識の人達を避けながら目的の場所へと
進んで行く岡田さんについて行くと
ブルーシートが被せられている所で止まる。
ブルーシートを捲ると白骨化した
遺体があった。
「これか…」
「結構経ってますね。」
遺体の首には首を吊ったんだろうと思われる
ロープの一部が垂れ下がっていた。
自殺……にしては何か違和感を感じる。
天井の格子にもロープが垂れ下がっていたから
一見自殺に見えるが…
「他殺だな…。」
大野主任が呟く。
それに岡田さんは「だろうな…」と答えた。
やはりそうか…この遺体には他殺だと思わせる所がいくつかあった。
でも、何故わざわざ分かりやすいようにしているのか…
そんな事を考えていると、大野主任と岡田さんが2人でボソボソと話始めた。
「俺を呼んだんだから、
今回も関係してるんだろ?」
「ああ…」
(なんの事だろう?)
「今回は何処に?」
「こっちだ」
岡田さんが指した方へと2人が移動するので
ワケが分からないまま黙って付いて行った。
事務所の隣の部屋に入ると、そこはココが廃工場だという事を忘れそうな程…
異様な景色だった。
四方の壁の天井から床に向けて大きな布が
垂れ下がっていて
そこいら中に羽が落ちている。
そして…一番奥のその布に大きく赤い色で
書いてある文字を見た途端、
急に頭が割れそうな位の頭痛が襲った。
なんだ?!これ??気持ち…悪いっっ!
眩暈がして上手く立っていられない。
そしてそのまま床に崩れ落ちる。
それに気付いた岡田さんが駆け寄って来る。
「おい!!松本!どうした?!」
そのまま目の前が真っ暗になっていった。
その様子を、冷たい眼差しで見ていた男がいる。
その男は松本の様子を見て呟いた。
「あと、少しだ…。」と…