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プロローグ③
櫻井翔





カチンッ




「はい、カットでーす!」




いつもの収録が終わりザワザワと慌ただしく周りが動いている中、気持ちは真っ直ぐ帰宅に向かっていた。


なのに…



「櫻井さんお疲れ様です」



同僚のキャスターに声をかけられる。


「あ、お疲れ様です」



「この後どうですか?お食事でも…」



「あ、そーですねぇ…ちょっと戻らないとこの後の予定がなぁ…」




なんて言いながら断る理由を考える。



正直今日はそんな気分じゃなかった。



そんな時、先ほど電源を入れた携帯が鳴った。



ナイスだ…と、かかって来た相手にグッジョブなんて思いながら失礼と言い相手を確認するとさらにニヤリとなる。



流石ミラクルが似合う男…なんて思いながら電話に出る。




「もしもし…どーした?」




このまま電話相手を無視して断れるように会話を進めて、そして誘った相手に断る手順で頭がいっぱいだった。





次の言葉を聞くまでは…





「しょおちゃーーー…ん。
         俺、死んじゃうぅぅぅ…」




「………は??」




思わぬ一言に組立てた自分の計画が
音を立てて崩れ去る。




「何言ってんの?おまえ…?…
   え?マグロ漁船? …ちょっ、泣いてて何
   言ってっかわかんないのか、お前が言って
   る事がわかんないのかわっかんねーよっ」



最早自分も何を言っているのかがわからなくなっていた。



そんな様子を見て今日は無理なのを察した同僚はにこにこ手を降りながら先に戻ってしまった。



作戦ある意味成功…だけど、未だ何を言ってるかわからない方はほっとけない…。



とりあえずそっちに行くのを待ってろと言いながら電話を切る。



帰り支度をして駐車場までの道のりを駆け足で向かう。



外に出ると何時もより明るい気がした。




空を見上げると、満月だった。




満月って万有引力の関係かなんかでいろんな事を引き起こすって言うけど…それのせいか?なんて少し呪いたくなった。






いや…そんな事はないか…




それならあの時…
あの満月の晩の事も、全てがそれが原因だと言う事になってしまう。




そんなわけがないのに…




少し気分が落ちてしまいそうになった。



だけどこれから会いに行くケンカをしているであろうあいつらを思い浮かべて微笑む。





俺は、笑ってないとなぁ…





迷い続けている俺たちを
明るく照らしてくれないかと

満ちた光の道標に
祈る事しか出来ないけれど……