誰にもある


幼い頃の忘れられない思い出は


虹の雫のように



心の中の隅っこでキラキラと光る


小さな宝物

 

 

その一粒一粒を


思い出すたびにちょっぴり心が切なくなって

 

ほろりと涙がこぼれそうになる

 

そんな幼い女の子の愛情物語

 

 

 

ある朝のことでした。

 

 

幼稚園に通っている女の子はいつもお母さんに

 

幼稚園バスの乗り場に送っていって


もらうのですが

 

 

この日は家を出るのが遅くなってしまい

 

幼稚園バスの乗り場に行ったときには

 

バスはすで出発してしまった後でした。

 

 

小さな弟を抱っこしているお母さんは

 

この日は仕事が休みだったこともあり

 


歩いていけばなんとか


幼稚園が始まる前には間に合うから、と

 


片手で女の子の手を引いて

 

歩いて幼稚園まで送っていくことにしました。

 

 

幼稚園の途中のゆるい坂道にさし掛かったとき

 

お母さんがつまづいて転んでしまいました。

 

 

女の子はびっくりして

 

「お母さん大丈夫!?」としゃがみ込むと


お母さんは膝小僧を怪我していました。

 

 

お母さんに抱っこされていた小さな弟は

 

ほっぺをすりむいて泣いていました。

 

 

お母さんは私と弟に「ごめんね。」と言って

 

ハンカチで膝小僧をぬぐいましたが


血が出ていて痛そうでした。

 

 

女の子は、転ばなかったけれど

 

小さな弟とお母さんの痛そうな様子に


胸が痛んでなりませんでした。

 

 

幼稚園の手前には丸い池があって


そこまでなんとか歩いて来ると

 


お母さんは、ぐずっている弟を抱っこした手で


トントンとあやしながら

 

 

「ごめんね。ここからは幼稚園に一人で行けるね?」

 

と女の子に言いました。

 

 

女の子は「大丈夫、一人で行けるよ。」

 

 

そういってお母さんと弟にバイバイと手を振り

 

丸い池の向こう側の幼稚園まで歩いていきました。

 

 

途中で、お母さんと弟の姿が見えなくなるまで

 

何度も何度も振り返りながら頑張って歩きました。

 

 

幼稚園についた時にはもうお遊戯の時間が


始まってしまっていたけど

 


なんとか到着出来て

 

女の子は何ごともなかったような顔で


先生に挨拶をして


いつものように過ごしました。

 

 

そして


お昼ご飯の時間になったときでした。

 

 

お母さんの作ってくれたお弁当のふたを


開けた瞬間、

 


女の子はずっと我慢していたのか

 

堰を切ったように


わんわん泣いてしまいました。

 

 

おかあさんの手作りのお弁当を見つめて

 

ぽろぽろぽろぽろ涙がこぼれてきて


止まりませんでした。

 

 

転んだお母さんと弟の姿に胸が痛んで

 

 

怪我をしたお母さんの膝小僧と


弟のほっぺのすりむき傷が

 

かわいそうで

 

 

途中の道で


バイバイしたのがとてつもなく寂しくて

 

 

一人で幼稚園まで歩いて行くときに


何度も振り返るたびに


だんだん二人の姿が小さくなって


見えなくなるのがすごく心細くて、、、

 

 

そして


今すぐお母さんに会いたくなって

 

 

お昼ご飯の時間が終わっても

 

みんなが休憩時間に校庭に遊びに出ても

 

 

お弁当の前で一人机にじっと座ったまま

 

ひとしきり泣きました。

 


先生は、はじめは


「どうしたの?」


「お腹が痛いの?」


と聞いてくれていましたが



何も答えず、ただただ泣いている


女の子の様子を見て


何かを察した様に



女の子が泣き止むまで


少し離れてさりげなく見守ってくれました。



 

。。。お弁当は


結局ほとんど残してしまいましたが

 


帰りの時間になる頃には

 

いつもの元気な女の子に戻ることができました。

 

 

この日はバス降り場に


お母さんが迎えに来てくれています。

 


女の子は元気いっぱい

 

「ただいま!」とバスを降りて

 

お母さんのもとに駆け寄りました。

 

 

お母さんは優しい笑顔で

 

「今日の朝はごめんね。今日はえらかったね。」

 

と女の子のことを労いました。

 

 

女の子のお母さんは知っています。

 

女の子が幼稚園でいっぱい泣いていたことを…

 

 

幼稚園の先生が何かあったのかと

 

お母さんに連絡をしてくれていたからです。

 

 

女の子は、お母さんが先生から聞いていたとは


知らないので

 


何よりもお母さんに心配をかけずに


済んでよかった、と

 

幼な心に思っているのでした。

 


幼い頃はみんな

 

お母さんやお父さんのことを思い

 

小さな弟や妹のことを思い

 

家族のために自分が出来ることを一生懸命

 

やろうと思います

 

 

みんな愛のかたまりだからです

 

 

小さなその姿の中には

 

大きな大きな愛を携えているのです