$雑食食堂

★★★★☆

1. Black Hole
2. Touch Me
3. Illusion Show
4. Love is like a bass line
5. The Answer
6. Only You
7. 4am
8. RUN WAY
9. Turn Off The Light
10. SHOUT IT
11. Lullaby
12. Magic Word

その卓越したライブパフォーマンスで着々と支持を得ているシンガー&ダンサー、三浦大知の3枚目のフルアルバム。2011年11月30日発売。

震災後に行われた去年のツアーの東京公演に行ったが、その世界でも十分通用するパフォーマンスに圧倒されて、連発されるシングル群も軒並み傑作だったので本作に対しては異常なまでに高いハードルを設定していた人がほとんどだと思う。ご多分にもれず僕もその内の一人で実際に聴いてみたところ、ハードルを楽々越えてくれたと言えば嘘になるが、音楽がある程度好きな人が手に取ったら概ね満足する内容であると思う。これがこの国の音楽のスタンダードになれば、ガラパゴス化著しい割と暗めの未来にも光がさす事は間違いない。

R&B寄りの楽曲とHIPHOP寄りのアーティスト/プロデューサー陣を揃え作られた前作もその年を代表する傑作だったが、今作はそんな「アイドル離れ」した大知が新たなアイドル像を提示すべく様々なジャンルの曲が「ダンスミュージック」を軸に展開されている事が興味深い。
シングルだったleccaをソングライティングに迎えたレゲエ/ダンスホールナンバーM-9を筆頭に、歌詞もギターサウンドも爽やかなロックナンバー、M-8等は彼の新たな一面を知る楽曲だ。

そして何よりも驚きなのが冒頭のBlack Hole。序盤は音数少なめでじっくり彼の歌声を堪能するおとなしめの曲かと思えばサビを終えて顔を出したのは昨年のダンスミュージックを席巻したダブステップ風のビート!!歪みまくったビート上に臆面もなく歌を乗っけてくる大知の適応力に初っ端からドキモを抜かれる。
そのまま畳み掛けるようにK-POP全盛期で主流だった(今はそこまでかな)フックソングの手法をサビで取り入れたM-2とホームリスニングでもライブで体感してもフロアでかかっても盛り上がれそうな全方向に対応したダンスナンバーが続く。

しかしそのままの勢いでアルバムを突っ走ることなく、ジャジーな雰囲気のトラックで変幻自在のキャラになりきって歌うM-3とタイトル通りファンクなベースが鳴りやまないM-4で若干レトロ寄りのチャンネルも披露するあたりに今作の意気込みが垣間見れる。

それからは発売当時の冬の訪れを感じさせるような曲の流れのM5~7も素晴らしい。
特に本作には数少ない弩直球のR&Bを堪能できる流れを締めくくる7は、T-Painが恋人との甘い午前5時を歌ったのに対し、大知は恋人を失った午前4時を歌う。図らずとも最先端のアーバンミュージックと同時代性を感じさせるプロダクションを担ったSTYの手腕に唸らされる。

しかしその余韻に浸る暇もなく今度はアッパーな曲が続く。歌詞が完全にアイドルソングであるM-8もライブの合間のMCからも滲み出る彼の人柄を感じさせる爽やかなロックチューン。ツアーではアルバム発売前にすでに発表していた曲が本作からいくつかあったが、やはりこれが一番耳に残った。

アッパーな曲群からシングルとして発表したバラード、M-11を挟み、ラストの12もシンプルながら彼の魅力がつまった良曲で幕を閉じる。

本作は従来の路線を期待していたファンからは、多ジャンルに手を伸ばし過ぎていてとっ散らかった印象を受ける方もいるかもしれないが冒頭でも書いたように、アイドル音楽を世界基準でやってのけた本作は新たなファン層の獲得も十分に意識した意欲作であり、傑作であると思う。
しかしどうせだったら昨年セールスも賞レースも制し、大復活したクリスブラウンの「Yeah3×」のような中身皆無のひたすらアッパーな曲を8~10のどれかと差し替えてもらいたかった。個人的には大知は和製クリスになってもらいたいので。

そしてシングル曲の感想はすっ飛ばしてしまったが、シングルの傑作ぶりが本作の購入にいたったと言っても過言でない。
M-5,10を手掛けたU-Key Zoneとガッツリ組んでR&B主体のミニアルバムとか出したらとんでもない傑作が出来るんじゃないだろうか…(因みにU-Key ZoneはロックナンバーのM-8もプロデュースしている。キンキキッズに楽曲提供したりと、彼も大知同様引き出しの多い人だ。)