$雑食食堂

★★★☆

イ・ビョンホンと「オールド・ボーイ」などで知られる実力派チェ・ミンシクが共演するクライム・サスペンス。残忍な連続殺人犯ギョンチョル(ミンシク)に婚約者を惨殺された国家情報院捜査官スヒョン(ビョンホン)。復しゅうの鬼と化したスヒョンは、犯人に婚約者と同じ苦しみを与えるべく、執ようなまでに追いつめていく。「甘い生活」「グッド・バッド・ウィアード」でもビョンホンと組んだキム・ジウン監督がメガホンをとる。(参照:http://eiga.com/movie/55873/)


イ・ビョンホンのファンと思しきマダムなお客さんは「重すぎるんだけど…」と言いながら劇場を後にした。
というか悪役に暴力を浴びせ続けるイ・ビョンホンに耐えられなくなったのかわからんが、上映途中で退席した人もいた。

確かにバイオレンス描写は過激だが、この話の骨幹は『アンパンマン』と同じだと個人的には思った。
バイキンマンが悪さをする→アンパンマンがやってくる→バイキンマンを懲らしめる(以下長いのでキャラ名略)

見なくなって久しい『アンパン』の大まかな話の流れはこうだ。しかし一回アンパンがバイキンをぶっ飛ばせばお話は終わる。しかし『悪魔~』は上映時間が2時間以上あるため、アンパンの「暴力」に連続性が生じる。普段なら次の話ではケロッとしてるバイキンは今回は時間が連続しているので一度負った怪我は次の「悪事」にも引っ張られる。何とも気の毒な話だ。

しかしバイキンの悪事も強姦に強盗に殺人とやりたい放題なので、観客側は奴を懲らしめるアンパンに思いっきり感情移入できるようになっているのだが、この映画はクライムサスペンスとしては色々欠陥があるように思えてならない。

まず犯罪者バイキンがなぜこのような悪さをする人間になってしまったのかが一切描かれない。
これは恐らくバイキンに一切感情移入させないためなのだろうが、犯罪を取り扱う以上いくら何でもそこに触れないのは話の進行的に不自然過ぎる。

そして今まで見てきた韓国映画にも言えることだが警察が湾岸署のアイツ等級に無能すぎる。
バイキンに制裁を加えるべくアンパンことイ・ビョンホンは独自の操作で犯人にたどり着くのだが、いくらエリート国際捜査官とは言え、一人で捜査して警察を出し抜いて犯人にたどり着けるわけがない。しかもイは事前に婚約者を殺されたショックで警察に休職を申し出ている(勿論犯人探しの為の時間作りなのだが)。

どう考えても単独捜査フラグがバリバリ立ってるのに警察は彼を見張りもせずスルーという衝撃の監視力のなさにも呆れた。
そもそもイの婚約者は警察OBの愛娘でもあるんだから警察の威信にかけて捜査すべきなのに、肝心の捜査官どもは「うっかり見張り忘れてました!」的なドジばかり踏んでいて本当に腹が立った。

他にもストーリーがとことん破綻しているが一つ一つ挙げるとキリがないのであと一つだけ。
クライマックス直前にバイキンがイに電話をするシーンがある。そこで犯人は「ジジイを殺す!」とハッキリターゲットを名指しで言っているのだが(しかも住所まで言っていた気がする…親切すぎ!)、イはバイキンの次のターゲットが分からず以前自分がボコボコにして病院送りにしたバイキンの仲間の入院先に、尋問がてらまたもやボコしに行く(このシーンは正直悪役のデブがかなり気の毒)。
そのタイムロスで最悪の悲劇をイは起こしてしまうのだが、どう考えても暴力シーンを増やしたかった&この悲劇を起こしたかっただけにしか見えず、脚本の杜撰さが露わになっている。

…と、ここまで書いて『シリアスマン』より点数が高いのは、イ・ビョンホンのアクションがどれも文句無しにカッコいいのと、バイキンの犯罪シーンはどれもホラー映画バリに怖かったからに尽きる。主演二人の演技力の凄まじさが脚本の陳腐さを補って余りあったからに他ならない。

ちなみに序盤のシーンでイのヒロインが車の故障で雪の中立ち往生するシーンがある。ここで彼は電話越しにヒロインの不安を和らげようと勤務中にも関わらずバスルームに閉じこもって歌を歌い出す。途中で部下が入ってきて彼は慌てて会話を切り出して誤魔化すのだが、このお茶目なやり取りは後の物語のタッチからは凄まじくかけ離れすぎている。

逆に言えば笑えるのはこのシーンのみだ。

イ・ビョンホンファンが今作をどう受け止めたかは分からないが、少なくとも僕の中での彼の評価は確実にあがった一本。