$雑食食堂

★★★★☆

巨匠クリント・イーストウッドが、死後の世界にとらわれてしまった3人の人間の苦悩と解放を描いたヒューマン・ドラマ。サンフランシスコに住む元霊能者で肉体労働者のジョージ、臨死体験をしたパリ在住のジャーナリスト・マリー、兄を亡くしたロンドン在住の小学生マーカスの3人が、互いの問いかけに導かれるようにめぐり会い、生きる喜びを見出していく姿を描く。脚本は「クイーン」「フロスト×ニクソン」のピーター・モーガン。出演はマット・デイモン、セシル・ドゥ・フランス。(参照:http://eiga.com/movie/55325/)

引用したあらすじに「死後の世界にとらわれ」たとあるが、別に主演の三人が三途の川を行き来し続ける映画では無い。こんな但し書きを入れたのは僕自身がそのように勘違いして観に行ってしまったからだ。序盤のスマトラ沖地震(多分…)による津波でマリーが一時的に臨死体験をするだけで基本的に「アンビリバボー」的なノリの臨死体験映画では無い。(僕はそうだと思ってました)

イーストウッドの凄いところは今の時代をしっかりと見据えた映画作りをしている事だと思う。今のアメリカに呼応するかのように『インビクタス』を、イラク戦争時には『ミスティックリバー』と絶えず「今、人々が受け止めるべきメッセージ」を見事に映像化する。80歳になった今でも好奇心は留まる事を知らないようだ。

作品内では数々の災害、テロが大きく取り扱われている。ロンドンのテロや津波などから物語の舞台は2005年なのだろうか。多くの人が大切な人を失って言えない傷を抱えている。「霊能者」なんてインチキくさい商売をしていた男が主人公の映画なんかそうやって心に傷を負った人が観たら憤慨するに決まっているが、本作は本当に「癒し」を与えてくれる数少ない映画ではないだろうか。

似た映画だと去年『ラブリーボーン』が公開されたが多感な時期に命を失った『ラブリー~』は物語が何かと感傷的かつ設定が曖昧で面白くなかったが、『ヒア~』は物語内で「マッド・デイモンは本物の霊能者」と定義づけられるのでこちらの方が物語に没頭できる。

アメリカ、フランス、イギリスでそれぞれ暮らす人物が最後に交わるラストの展開は観ていてぞくぞくする。
3国間の人物が一堂に会するのも決してわざとらしくない。群像劇としても一流の作品だ。

ただ少し納得できない部分もいくつか。まずマッド・デイモン演じる霊能者、ジョージがエロい料理教室(エロシーンではなんですがエロいんです)でお近づきになった美人とのやりとりがあるのだが、この一連の遣り取りには不満がある。本意ではないにしろ傷つけてしまった彼女を救う事が、彼自身の救済になり得なかったのだろうか。あんな別れ方でラストまで遂に彼女が救われないことは残念だった。彼自身は何度もそういう事態にあったのだから解決策は見つけられたはずだ。

後双子の兄を亡くして里親に引き取られる男の子はいくら兄の死で心を閉ざしているとはいえ人ん家の金を盗むのはどうなんだ。ネット環境があるならもっとしっかり調べてから霊能者に金を使えよ、と思った。
そして里親とは結局どうなったのか、出来れば最後は心を開いて欲しい


ネタばれが大いにある不満点2点だが、完璧に個人の欲求に応える映画なんてあり得ないし寧ろこれしか不満点が無い映画は個人的には珍しい。

間違いなく万人に薦められる、今年を代表する一本!!!