$雑食食堂

★★★☆

「パッチギ!」の井筒和幸監督が、お笑いコンビ「ジャルジャル」の後藤淳平、福徳秀介を主演に描く青春映画。目標もないまま自堕落な生活を送る専門学生のユウキは、ヒーローショーの悪役バイトを始めることにする。ある日、バイト仲間のノボルがユウキの先輩・剛志の彼女を寝取ったことで、ヒーローショーの舞台上で2人は殴り合いを始めてしまう。その後も剛志はユウキも含め悪友たちを招集し、ノボルをゆすろうとするが、ノボルも自衛隊上がりの悪友を集め報復に出る。(参照:http://eiga.com/movie/55253/)


YouTubeに上がっている本作のプロモーションビデオを見ると、↓


なんか「喧嘩あり、笑いありの爽やか青春映画☆」みたいな印象が強いが、そんな要素は皆無。
陰惨な暴力の負の連鎖を徹底的に描き出した背筋も凍るバイオレンスムービーだ。

正直言って構成に穴がありすぎて突っ込むのも疲れるくらいの矛盾だらけのストーリーだが、それを凌駕するのが俳優陣の演技の凄まじさと暴力描写。

特に凄いのが典型的な暴力大好きDQNのサーフショップ店員の存在感。
ティンバーで執拗にターゲットの大学生のスネを蹴り上げ続けたり、学生証をコピーして逃げ場を無くすサディスティックなシーンは実際に893もどきがやっていそうで本当に怖かった。

しかし、この映画は監督いわく「現代の若者を描写した」らしいのだが、少なくとも僕の周りにはこんな人達はいない。むしろこの映画は携帯電話や出会い系サイトのサクラ会社経営といった映画上の「記号」のみが現代風なだけで、エンディングテーマのピンクレディーにしろ『パッチギ!』のような昭和的なムードが全体的に漂う。これは井筒映画の個性なんだろう。

と言うわけで現実に起こった大学生リンチ事件をモデルにしながらも、何故か映画は昭和風味というなんともチグハグな印象の映画だが、その「歪さ」が逆に良い味を出している。監督のセンスが非常に良いのだ。

圧倒的に面白いのは前半の殺人にまで発展してしまう暴力シーンで、それ以降は人を殺しているのに何とも長閑なシーンが延々と続くので退屈に思える人もいるだろう。

しかし先日のタマフルのポッドキャスト(http://www.tbsradio.jp/utamaru/index.html)を聞くとこのダラダラした後半部分は「問題が起きてもすぐに投げ出す/逃げ出す若者を淡々と映した」らしい。そう言われると妙に納得してしまう自分がいる。(まぁ映像だけで分からせてほしかったですが)

勝浦の不良が物凄い馬鹿っぽい右寄りのラップを爆音でかけて女をナンパしたり、主役のジャルジャル福徳のやってる「妹と会話するパソコンゲーム」など、ところどころ監督の偏見の混じった若者像に反感を覚えると観るのが辛い一本。

ちなみに大絶賛されているジャルジャル後藤の演技は個人的には芸人がやったにしては上手いな、レベルだと思う。劇中で彼が「相変わらず腹筋千回、腕立て百回やってるぜ!」と自慢げに言うシーンがあるが、とてもそんなトレーニングをしている体には見えなかったのが残念。
その台詞言うならウルヴァリンくらいの体格じゃないと説得力が無い。

ヒーローショー [DVD]/後藤淳平(ジャルジャル),福徳秀介(ジャルジャル),ちすん

¥3,990
Amazon.co.jp