$雑食食堂

★★★★★

8thアルバム。2010年8月25日発売。

かつてのドラッグディーラーは「ラップ」を「ビジネス」と捉えることで社会との関わりをより深くしていった。
格下ラッパーからのビーフにも真摯に対応し、「誰かをプッと笑わせてーだけ」と言い切りエンターテイナーっぷりをこれでもかと発揮させ、どこそこ構わずリスナーを盛り上げてきた。

SEEDAは国産ヒップホップリスナーの中では間違いなくトップの人気を誇るラッパーで、彼の作品の売り上げ枚数が「日本語ラップリスナーの総人口数」とも言われるほどだ。
英語も自在に操るボキャブラリーの広さ、「聞きやすさ」を重視しアルバムごとに洗練されていくフロウ、比喩表現の上手さや歌詞の「行間」の味わい深さなど、長所を挙げればキリがないが人気、実力ともに兼ね備えているラッパーである事は間違いない。

今作は引退を表明した前作『SEEDA』でもとりわけ社会的メッセージが強かった「Dear JAPAN」や競争社会に苦言を呈する「JUST ANOTHER FEELIN」といったどちらかと言うと「新機軸」的な歌詞の内容がほとんどだ。反対に「GO HARD OR GO HOME」や「オチツカネエ」などの薬物売買やクサネタは皆無。

そのため歌詞のトピックは必然的に狭まってしまうが、その分メッセージ性はより鋭利に、そして趣向を凝らしたものが多い。
「山に止まった鳩は飛ばない/ふもとの事みてない/今日も変わらない」「党首はすげ替え看板」と当時の首相や政党を批判し自らは「好きな日本を探」すと言い切るM-4。
資本主義が競争社会を生み出す現代に疑問を抱くも、そういった価値観に世間とのズレを感じ「俺はエイリアンかな」と自嘲気味につぶやくM-14。
帰国子女である自身を振り返りながら人種差別の無意味さを解くM-2など、挙げればキリがないほど歌詞のトピックは「社会」にフォーカスしつつも多彩だ。

そのラップを支えるトラック、客演も豪華で前作でも完全バックアップしていた敏腕プロデューサー、Bach logicと今回はOHLDとSEEDA本人でアルバムを制作したようだ。

BL自身の提供曲は今作では少し減ったが、相も変わらずクォリティの高いトラックを提供している。M-12のようなサンプリングとシンセのハイファイなサウンドの融合なども彼の真骨頂だが、前述したM-14ではアコースティックギターを前面に押し出したカラッとしたポップサウンドで、自身もサビで美声を提供している。

また今作はなんとあのDRAKEの名曲「FIREWORKS」を手掛けたCRADAもM-3のビートを提供!!!アルバムのリードトラックとしてプロモーションされているが、USのメインストリーム感あふれる(彼はドイツ人らしいが)スリリングなトラックは文句なしにカッコ良い。

そして最後に最終曲、M-19について書いておきたい。
本稚稿を読んだだけではSEEDAが「日本/社会」への不満を吐露してばかりの作品に思われてしまうかもしれないが、デヴィッド・バナー(!!)を迎えたこの曲では「この国に生まれて感謝/疑う事もあるけどよ感謝」と素直な気持ちを歌いあげている。「裸足の子を見ない23区」「学問習える国の算数」など日本の美点を挙げながらもヴァースを「2度あっても同じ家族でいたい」と締めくくる。この人間臭さがこの人の最大の魅力なのかもしれない。

とにかく今年の国産ヒップホップ、またはポップミュージックを語る上で避ける事の出来ない素晴らしいアルバムです。


BREATHE/SEEDA

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