★★★★☆
くるりの9枚目のアルバム。2010年9月8日発売。
傑作。
僕のブログを見ていただければ分かる通り、基本的に音楽に対するハードルは甘めな人間なんですが、それを差し引いてもこのアルバムは素晴らしい出来だし、今年まだ聞いていない人は絶対に損をする、と断言できるアルバムです。
まずタイトルがとても良い。「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」。
暗いニュースが飛び交う世の中に向けたメッセージであると同時に、「言葉にならない笑顔」を引き出すためにくるりが、ひいては岸田繁が使うのは「言葉」。
「言葉」という表現方法で、「言葉以上のもの」を表現する、引き出そうとするという意気込みが、アルバムタイトルからひしひしと伝わってくる。本当に良いタイトルだ。
収録されている曲も非常にメッセージ性の強いものばかり。
アメリカに従順な日本を痛烈に批判する2、一見軽快な曲調だが歌詞は現代の(とりわけ国内の)ロックに対する皮肉が散りばめられた11など、直接的な表現で攻める曲も魅力的だが、今作で最も聞きごたえのある曲は4の「目玉のおやじ」から5の「温泉」の流れだろう。
どちらも平易な言葉のみで綴られていく歌だが、とにかく奥が深い。
「ちょっとぬるいくらいがいい 歳取ったら」(M-4より)
これは目玉のおやじの茶碗風呂の温度の事を指しているが、歳を取ったらあまり口うるさくせず、「超千里眼」で周りを見渡して、「情けない息子達」を見守ればいいのではないか、という風にも解釈できる。
もちろん「おやじ」と「息子達」の関係も上下関係等に置き換え可能だろう。深い。
一方「温泉」はこれまた何気ない温泉でのひとコマを描写しているようだが、名前も知らない他人にも「湯冷めはするなよ」と気にかけるような、他人との程良い距離感を温泉にたとえて表現しているのだ。
名前は知らなくとも、こうしてお互いがお互いを気遣えるような社会になってもらいたいという岸田の願いもこもっているのではないだろうか。
サウンド面は「日本的」な部分を強調し、尚且つ歌詞を全面に押し出す為か基本はフォーク調のロックと言ったところ。
正直僕はこういうサウンドに慣れていなかったので若干退屈に思える箇所も始めはあった。なので普段フォークを聞かない人達には拒絶反応を起こす人も出るかもしれない。
しかしこの徹底的に作り込まれた歌詞、日本語に一番合うのは、やはり日本仕込みのフォークなのかな。
とにかくきかなきゃ損。最近の日本語ロックの歌詞に退屈している人に是非。
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