★★★★☆
北海道を代表するヒップホップグループ、マイクジャックプロダクションの1stアルバム。2002年発売。
最近のヒップホップは洋邦限らずソロマイカーの作品ばかりでヒップホップの多ジャンルと差を付け、尚且つ醍醐味とも言えるマイクリレーもののアルバムが少ない。
今年は突如として現れた感の強いDINARY DELTA FORCEがスリリングなマイクリレーを披露してくれたが、似ている傾向で比べるとやはり個人的にマイクリレーもののアルバムとしては本作の方に軍配が上がった。
今となっては公務員となりラッパー業を廃業してしまった僕が日本一好きなラッパー、SHUREN THE FIREが所属している最初で最後のフルアルバムでもある本作は、集団によるマイクリレーのキャラ立ちもさることながら、個々人の知性溢れる言葉のセンスや、韻に引っ張られる事の無い強靭なフロウが最大の魅力だ。
「1億2000万人の国民休日出勤はやめろ!」
「忌まわしい日常を忘れさせて」
「静なる月 動なる太陽が見てる肥えた黒土」
「悲劇の血管を爆走 俺は人間を爆破 この状況が俺を狂わせる」
ストーリテリングをさせれば右に出るものはいないビッグジョーやまくしたてるフロウが魅力的なLARGE IRON、それとは対照的に平熱で単語一音一音をかっちりと発音しリスナーに歌詞を聞かせるスキルに長けたJ.K、切れ味あるフロウで高速ラップをパンキッシュに決めるINI、そして立体的な声と詩世界を武器に、「ビート上に乗ってラップする」のではなく「ビートを喰うように」ラップする天才MC、SHUREN THE FIREと見事に誰もキャラが被らず、グループとしての完成度の高さを伺わせる。
グループにありがちなヤンキー的なノリも垣間見える事があるが、それよりもMC陣は己のスキルのボースティングを重要視していて、全員が自身のスタイルを崩さずに俺が俺がと前に出るように繰り出されるラップの数々は自然と体が乗る。
北海道という気候のせいもであるのか、サンプリングを基調とした温かみのあるサウンド上でのラップは、寒さと言う抑圧に対抗するために熱量が高いのかと思わせる。
それが生み出すライブ感もたまらない魅力だ。
基本的には暗い路地裏を連想させるような単語をちりばめた楽曲が多く、曲ごとに明確なテーマを絞っている作品は少ない。
だからか戦争をテーマにしたM11や、各MCが役名を名乗り、14分にも及ぶ遠い宇宙で繰り広げられる近未来SF的な夢物語M13の完成度が際立つ。
捨て曲なしの大傑作。
SPIRITUAL BULLET/MIC JACK PRODUCTION
¥3,150
Amazon.co.jp