★★☆
ようやく聞けた勢いのある若手バンドのファーストミニアルバム。4月7日発売。たぶんミッシェルの曲名とは関係ない。
4月発売の作品の感想を今更書いても需要があるのかが疑問ですが、まぁ聞いたのは最近なんでご容赦のほどを。
Amazonのレヴューを見ると正に賛否両論真っ二つ!!という感じだったが、個人的には「アリ」なバンドだと思えた。
まさかのベースドラムレスバンドなので基本リズム隊は打ち込み。なぜかピエロのお面をしたメンバーがDJをしていて、恐らく彼がライブ中にターンテーブルから流すのだろう。
この時点で「バンド」という括りにこだわる人は拒否感を覚えるかもしれないが、寧ろ僕自身憤りを感じたのはDJがいるのにスクラッチ音もなく、ただデジタルサウンドとリズム隊の演奏を垂れ流しているだけで聴覚的な要素でピエロの彼が何の役にも立っていないことだ。ただの視覚的要素か??
リズム隊が打ち込みによるジャストなビートで、音源だろうとライブだろうと鳴らされる事に違和感はさほど感じていない。寧ろ「幻の命」の病院を彷彿させるPVにも表れているようにこのバンドの「潔癖さ」をより強めていて良いと思う。
「潔癖さ」はボーカルの声にも表れている。かすれ気味の、少年性を失わないその声は本当に魅力的で歌詞の内容に関わらず聞き手を魅了する力を持っている。
生演奏による「グルーヴ感」を捨て、打ち込みによるズレの無い「ジャスト感」を選択し、ピアノと柔らかいギターが全面に出てくるサウンド上に透明感のあるボーカルが時折オートチューンを交えて乗っかる。正直気持ち悪いくらい「清潔」で「無菌」状態の音楽である。(何度も言いますが嫌いではないです)
しかし寧ろ言及すべきなのはなにかと過激な歌詞の方だ。
冒頭の曲「幻の命」では中絶を美化した内容だと言う指摘が多く、批判の的になっている。
確かに「幻に夢で逢えたら それは幻じゃない」なんて生まれてこれなかった子供にしてみたら身勝手な考えもいいところだが、個人的にはこの曲、「流産/死産」の事を歌っているのかなと思った。中絶だったら「UFOが 君を連れて消えていく」なんてフレーズは出てこないのでは、と思ったので。ひょっとしたら子供を亡くしてしまい、責任を感じている母親(になるはずだった人)への慰めの曲という解釈もできる余地があると思う。
しかし続く2曲目の「虹色の戦争」やM-5「死の魔法」は救いようの無い歌詞で、どちらも無意識(あるいは意識的に)に自然を壊す(殺す)人間たちへの痛烈な批判が続く内容だが、ボーカル深瀬の説得力が皆無。テーマが壮大すぎるし彼自身が人間以外の生物にどう接しているのかが歌詞の中では全く見えてこない。M-2の曲中に「偽物の自由の歌が爆音で聞こえてくるだろう」とあるが、それは彼らの曲自身じゃないか。
M-3の「インスタントラジオ」は例の「潔癖ポップ」に軽快なデジタルサウンドとオートチューンをガンガン取り入れた曲。痛烈な人間批判の曲の後に自身の曲を「PopでCuteなセカオワMelody」と称する不謹慎さは、純粋さゆえの残酷さなのかあるいは確信犯なのか。後者であれば僕好みだ。
前述したM-2、5の歌詞を飛躍させたのがM-6「世界平和」だ。
自分勝手な人間の主観的な世界と、客観的な世界を「セカイ」、「世界」と区別し聴く者の価値観をグラつかせようとするアグレッシヴな姿勢、センスは秀逸。だがやはりこれほどの事を歌詞にするなら今後の彼自身の振る舞いにも責任が伴う。「世界の終わり」を歌うということは、受け手である人間を批判するということはそれくらい「重い」表現だと自覚してもらいたい。(大きなお世話なのは重々承知で)
何はともあれ5~6分台の曲も、歌詞の内容に目をつぶればストレス無く聞きとおせる事はこのバンドの強みだ。
この調子で壮大なテーマにこの先も是非臆することなく取り組んで欲しい。
所謂「セカイ系」とは一線を画したバンドである事は間違いないのだから。
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