Brother Sun, Sister Moon -7ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

「これって、どんなお話?」ワタシの仕事場にある小さな本棚を指さし彼女が言う。

やれやれ。また来たか・・・少しだけ辟易としながらワタシは応える。

「ハードボイルド小説」

このやり取りは、一体何回目なのだろう。彼女が来ると必ずする質問だ。その時は覚えているらしいが、一度消えると記憶はリセットされてしまうらしい。

「ふーん」何度もきいた感嘆。

「アル中の元テロリストが、事件に巻き込まれて真犯人探しをする話」何度もした説明。

「ふーん。でも〈テロリストのパラソル〉ってなんだか素敵なタイトルだね」そして彼女はにっこりと笑う。

この笑顔。昔と全く変わらない。そりゃそうだ、彼女は20年前から歳をとっていないのだから。

今から約20年前、彼女は或る不幸な事故で命を落とした。
彼女とワタシは、高校時代に恋人同士だったが、何故今になってこうして現れるのかは解らない。

「あ、このタイトルも素敵。〈ブロードウェイの戦車〉だって」

そういえばお前、ブロードウェイでミュージカル観たいって言ってたよな。

「それもハードボイルド小説。仇討ちの話だ」

「ふーん・・・でも、なんだかハードボイルド小説って、素敵なタイトルが多いんだね。」
小首を傾げながら笑う癖、まだ治ってないんだな。

「相変わらずだな、お前」少しだけ可笑しくなってワタシも笑った。

「ねえ。」急に真顔になった彼女はワタシの眼を見つめながら言う。
「好きな人、できたでしょ?」

なるほど。死人には全てがお見通し、って訳か。

「うん」ワタシは少しだけ困惑しながら答える。

「応援してるよ。草葉の陰から、ね」
「洒落にならないな」可笑しくなって、ふたりで笑った。

「なあ」ワタシの本棚を楽しそうに眺め続ける彼女にワタシは言う。


「ブロードウェイ、行くか?」


「そうねえ。いいかも。今なら旅費もかからないし、ね」

馬鹿いうなよ。哀しくなるような冗談はやめてくれ。

「行きたかったな。ブロードウェイ」
「でも、あなたが連れていく相手は、私じゃないよ」

そうだな。確かにお前じゃない。

「じゃあね」

去りゆく彼女に私は言った。「この間は、ご褒美ありがとな」

小首を傾げた亡霊は、にっこり笑って消えていった。