20数年前にこの世を去った彼女が、ワタシの前にまた現れるようになったのは、およそ半年ほど前だ。
その晩、ワタシは或る友人と新橋の居酒屋にいた。
とりとめなく、しかし、とても楽しい会話を進めるうち、昔発生した航空機事故の話題が上った。
沢山の人が命を落とした事故。
その凄惨さで、恐らく国内史上、最も有名な航空機事故。
そして、その機に彼女は乗っていた。
その事故で彼女が命を落としたことを今まで話題にしたことはなかった。その事故自体の話からも無意識に避けて通っていた。
それなのに、なぜかその晩のワタシは、自分でも不思議なくらいに当時の出来事を語っていた。
事故が起きたあの夏のこと。
数日後、その機に彼女が搭乗していたのを知ったときの衝撃。
生存者が殆どいない、現場の状況を聞かされたときの諦め。
色々な想いが湧いて出た。
自然と目頭が熱くなるのを感じながら、ワタシは話し続けた。
その間、優しくて聡明な友人は、じっと黙ってワタシの話を聞いてくれていた。
その後、明け方近くまで痛飲し、自室に帰ったのは朝だった。自宅のドアを開けると、そこには死んだはずの彼女がいた。
ワタシは目を疑った。
悪酔いしちまった、そう考えたのだが、酒が見せる幻にしてはリアルすぎる。それに幻覚を見るほど酔ってはいなかった。
「おかえり」小首をかしげてにっこり笑う彼女。
「うん。ただいま」思わず答えた。
「随分沢山飲んだんだね」
「ああ。彼とサシで飲むのは初めてだったからね。楽しかった」困惑しながらも答える。
「よかった。楽しいお酒で」あの頃と同じ表情、同じ仕草で笑う。
訊きたいことはたくさんある、そう思った。
だが、言葉にならなかった。
やはりワタシは酔っているのかもしれない。
着替えるワタシの身体を見て、彼女が言う。
「やせたね」
「普通、中年になると太るのにな」
なんだか可笑しくなって、ふたりで笑った。
その後、ソファに並んで座り、しばらく沈黙の時間が過ぎた。
何故、今ここに来たのか。訊ねようとしたそのとき、それを遮るように彼女が言う。
「質問は、なし」
「でも、思い出してくれて、ありがと」
訊きたいことはたくさんある。
だが、ワタシは質問するのを諦めた。
やはりワタシは酔っていたのかもしれない。