Brother Sun, Sister Moon -11ページ目

Brother Sun, Sister Moon

駄小説のたまり場。

セミ・ノンフィクションの子供達。

彼女は、俺とシノミヤに向かって真直ぐ歩いてくる。

今日の走行会に、彼女の弟が参加するという事は、主治医からは聞いてはいなかった。
尤も、主治医は彼女の旧姓など知る由もないから、解らなくて当然だ。

でも、彼女は?
今朝の高速道路で突っかけてきたことは気付いていたはずだ。
現に、今、俺が弟と一緒にいるところを目の当たりにしても、全く驚く様子が無い。

我々の前までやってきた彼女は、シノミヤを軽く一瞥したあと俺に向き合い、「出走は3組後。準備、いい?」と言った。その表情は、どことなく固く、眉間には嫌悪が見せる皺がはっきりと浮き出ていた。

「ああ、もう大丈夫。いつでも出られる。」俺は彼女の表情を確かめながら答えた。
自分の表情に俺が気付いたのを察したのだろう。彼女は普段と変わらない笑顔を見せると、踵を返す。

シノミヤの脇を通り過ぎる時、彼女は弟の顔を真直ぐに睨み「いやらしいことしないで。」と言った。

暫く彼女の後ろ姿を見送った後、シノミヤは少しバツの悪そうな顔で「昔からああなんです、姉は。」と言い苦笑する。

俺はこの一連の光景を不思議な感覚で眺めていた。このふたりには、一般的な姉弟の匂いがない。
どちらかと言えば、「過去の恋人」としての関係に感じるものがあった。


「次の組で出るんです。そろそろ行かなくちゃ。ではまた。」シノミヤはにっこり笑うと、一礼し俺のパドックを後にした。

その後、俺は複雑な心持ちで準備を続けた。
シノミヤと彼女の関係は姉弟として明白だが、あのとき俺が感じた違和感は何だったのか?
邪推は不安に変わり、胸の奥にざわざわしたものを残した。

これからサーキットで走るんだ。
余計な事は忘れろ。

俺は自分に言い聞かせながら、黙々と作業を続けた。


そのとき、車両のコースインを知らせるホーンが鳴り響き、俺はピットロードに目を向けた。
真っ赤なアルファロメオが爆音を響かせつつ、目の前を通過して行く。

ああ、次の組が始まったんだな、そう独りごちたとき、シルバーのS2000が通り過ぎた。
シノミヤの乗るS2000。

S2000はコースインすると、きれいなライン取りで第一コーナーへ入って行く。

続く車両を確認しようとピットの後方へ目をやったとき、コーナーの向こうへ消えて行くシノミヤを見つめる彼女がいた。

その表情は、寂しげだった。
まるで、自分の許から去って行く恋人を追い求めるような眼差し。

余計なものを見ちまった。咄嗟に視線を逸らしつつ、俺はさらに陰鬱な気持ちになっていった。

=続く=