大きな声で呼ばれて顔を上げると、

余震で揺らぐ大地をものともしない安定感で、職員さんが鎮座ましましていた。

私は、なんだかすごくドキドキしていた。

ドーラに「行こう!」といって、少し遠くにいたRちゃん達に合図をする。


ドーラ、身長150cmくらい。ベトナム系アメリカン。

私、身長160cm、完璧なアジア顔の日本人。

Rちゃん、180cmくらい、見た目も日本人で日本国籍、でも名前は外国人。

このバラエティーに富んだ3人でカウンターに向かう。


職員さんがどう思っているか全く分からなかったけど、

次々に友達を横入りをさせて、団体でカウンターに向かったことが後ろめたかった。

私は5人分のパスポートをカウンターで出しながら、

「すみません、3人一緒にでもいいですか?

彼女は日本語が分からなくて不安みたいだったので」とドーラをダシにしつつ

「個別に一人一人並びなさい」というご指摘を受ける前に自ら謝罪した。


Rちゃんについては、昨日横入りさせてもらった恩があることは言わずに、

もうぶった斬られるのを覚悟で言った。

「彼女は妊婦さんでお腹が大きくて大変そうなので、一緒にお願いします」

ビクビクしながら説明すると、職員さんは言った。


「構わないですよ」


あれ?そうなの?

緊張していたのに、そこで一気に気持ちが軽くなった。

全員、今日のLA行のフライトに乗りたいと思っていることを伝えると

私たちのパスポートを受け取って、職員さんは何やらキーボードーを叩いている。


その間ぼーっと待っていると、昨日アルゼンチンのおっさんの予約で格闘していたお姉さんが

少し先のカウンターで手続き業務をしているのが見えた。


お姉さんは、今日は昨日と違って、メガネをかけていた。

私も昔コンタクトをしていたから分かるけど、

普段コンタクトをしている女性が、仕事でメガネをするというのは

あまり考えられない状況だ。


この突然の出来事で、昨日も10時とか11時まで、もしくはそれ以降も仕事をしていて、

今日も早朝から、打ち合わせやカウンター業務をやらなければならなくて、

とても目が疲れていてコンタクトが出来なかったのかもしれない。

もしくは、一日使い捨てのコンタクトが手元になくなってしまって

仕方無くメガネをしているのかも知れない。


んーーーーーー

そもそも、この職員さん達は、昨日ちゃんと家に帰っているのか?

ちゃんとした場所で寝る時間はあったのか?


私たちは空港で3日目を迎えようとも、休暇中なので、

この守られた環境で時間を潰して飛行機に乗る手続きだけを頑張ればいい。

成田には警備員さんも多くいたし、疲れたら寝袋で寝ればいい。


でも同じように地震にあっているこの職員さん達は

「どうしたらいいいんだー!」などと言っている暇ももなく、働くことを余儀なくされている。

この状況でも勤務するって、それって、大丈夫なんだろうか?


それで思わず、職員さんに

「あの、職員の方々って、みなさん昨日ちゃんと休めたんですか?」と聞くと

職員さんは「大丈夫ですよ~」という。


いや、これってどう見ても大丈夫じゃないだろうな、と思う。

女性は化粧や髪型なんかで、雰囲気ってかなり変わるもので

昨日に比べて、明らかにみんな疲れている雰囲気が漂っていた。

そこはプロフェッショナルだから「疲れた」とか「やってられない!」とか

そういう言葉は口にしないでいるんだろう。


最後尾が見えないくらい、長い列が出来ているその状況をみつつ

「職員さんはきっと、休憩時間とかもとれないんでしょうね」と言うと

「気がついたら一日が終わってますね~」と言っていた。


ドーラに、職員さんは休めてるのか聞いたけど、

大丈夫だって答えだったんだよと伝えると、ドーラはとても同情した顔をして

「きっとみんなとても疲れているに違いないと思う、大丈夫ですか?」

と職員さんにきいていた。

職員さんはドーラに笑いかけただけだった。


せめて、手元にコーヒーとか水くらいは配ってあげてー!

あ、でもお手洗い行きたくなったら、それはそれで困るのか??

と思っていると職員さんが言った。


「おひとりですか?みなさんご一緒ですか?」

そこで、私一人、ドーラ一人、そしてRちゃん達は家族3人であることを伝える。


「お一人今お席予約できますね」

え?うそ?

「Confirm しますか?」「し、します!」


そんなわけで、気がついたら、

私はその日のフライトのボーディングチケットを手にしていた。