あれだけ怯えていたのに、疲れがたまっていたのか

ベッドに横になるとあっという間に寝てしまった。


でも、朝方には何度も目が覚めて、その度に携帯で時間を確認した。

カウンターで早めに手続きをした方が、飛行機に乗れる確率は上がる、

というお姉さんのアドバイスがあったので

16時半ごろの飛行機だったけど、遅くても9時くらいには空港にいたかった。


朝、ホテルを出る準備をしながら、パソコンとiPhone の充電をいっぱいにする。

昨日まで陣取っていた私のあのワークステーションを構えていた場所は

今日は既に誰かが使っているだろうし、

そう簡単に、すぐに充電が出来る電源が見つかるとも思えなかった。


ホテルでチェックアウトを済ませて、預けていたスキー板も受取り、

シャトルバスにそれらを積んでもらって空港に向かう。


シャワーもして服も着替えてあったし、化粧もし直していたので気持ちが良かった。

シャトルバスからは、茶色い芝生と青い空が一面に広がっているのが見えた。

3月なのに、妙に冬みたいな印象を受けるなぁ、と思った。


そして予定通り9時くらいに空港に着いたものの、そこで見た光景には驚いた。

多い、人がものすごく多い!

こんな朝早くだというのに、すごい人が並んでいた。


とにかく人が長い列をなしている。

ちょっと青ざめながら、急いでAAのカウンターと「ECONOMY」の文字を探して並ぶ。

そしてオセアニアRちゃんにメールをした。


「Rちゃん、空港、考えられないレベルの混雑です叫び


Rちゃんからはすぐに電話があって、今から空港に急いで向かう、とのことだった。

考えてみれば、地震が起きてからずっと一人だったので

知らない人にでも平気で話しかけられるようになってしまった。

(いや、もともとそんな性格でもあるんですが)


自分の並び始めた列が間違っていた、とかで時間を無駄にしたくないので

周囲の数人に「これ、AAのエコノミーのラインですよね?」と確認をする。


そして並んでいると、昨日見たアジア系の女性、ドーラを見つけた。

お互いに顔はなんとなく覚えているという程度だったけど、

その位のレベルでも、あの場所では知っている顔を見て嬉しくなった。

大きく手を振ると、ドーラはすぐに並んでいる私の所に来た。


母くらいの年齢のドーラと知り合いになったのは、前の晩の夜だった。

当選者の発表をしている間、AAのお姉さんは名前を呼びながら、

人混みの中を左右5,6mにわたって歩き回っていた。

そのお姉さんを追いかけながら、一緒に5,6m走り回っていたのがドーラだった。


お姉さんが左に行けば、一緒にドーラも走って行く。

今から考えるとお姉さんは歩いていたのに、何故ドーラは小走りだったのか。(笑)


私が「よく聞こえないなぁ」と大きめの独りごとを言った時に、ちょうど横にドーラがいて、

私の手をつかみながら「おいで、一緒に走れば聞こえるよ!」と声を掛けられて

「あ、あの、ありがとう、大丈夫大丈夫!」と日本人的に断りを入れたのが

昨日の彼女とのやり取りだった。


ディミトリスと言い、ドーラといい、みんな必死に名前を聞きとろうとしてるんだなぁと

その真剣な姿が妙に微笑ましくて、それでドーラのことはよく覚えていた。


その朝、ドーラは同じようなアジア系の女性といたので、

てっきり家族で旅行しているのかと思っていたけど、それは私の勘違いで、一人らしかった。

ドーラはベトナム系のアメリカ人で、ちょうど日本を経由してアメリカに帰るはずが

突然地震にあってしまったらしい。


この列は何の列なの?と聞いてきたので、昨日のお姉さんのアドバイスを話した。

そして、小さい声で「ここにはいっちゃっていいよ!」と言った。

ドーラは「目ビックリマーク」こんな目で顔を輝かせて喜んで、急いでひもをくぐって列に入った。


1時間近く待ったころだと思う。

キョロキョロしていたら、随分後ろにオセアニアRちゃん達がいるのが見えた。


Rちゃんは妊婦さんだ。お腹の大きい妊娠6カ月。

あの場所からカウンターまで並ぶって3時間くらいかかりそうだったし、

それはちょっとまずいな、と思った。

そしてRちゃんには、昨日私を横入りさせてくれた恩があった。


ドーラに、ちょっとここで待ってて!と話して、Rちゃん達の所に行き、

「親子3人分のパスポートを貸して、私のと一緒に出すから」と説明した。


3人が私の目の前に突然入ると、横入り丸分かりなので

今はパスポートだけ受け取って、そして私がカウンターに行くタイミングで

別の場所から一緒にカウンターに来た方が

横入りしていることが分かりにくいんじゃないか、と思ったからだった。


Rちゃん達は「いいの?ありがとう!」としきりに言ってくれて

私も「大丈夫いいのいいの、まかせておいて!」

などと張った胸を叩く勢いだったけど、いいか悪いかを判断するのは、

どちらかというと私の後ろに並んでいた人達だろう。

どうもすみません。


アルゼンチンのおっさんに「時間かかり過ぎ!」

など文句を言ってた私だったけど、もしかしたらどこかの国のブログに、

「横入りを何とも思わない日本人がいて、

翌日は彼女の後ろに並んだりしないように細心の注意を払った」

などという記述があるかもしれない。

ほんと、すみません。


しばらく待って、やっとあと少しで私の番という所まで来た。

カウンターには5,6人の職員の方々が見えて、

出来れば優しそうで、それでいて仕事が出来そうな人に担当して欲しいと思っていた。


日系の企業と違って、外資系の人はしかるべき場所にきちんと確認をすることなく

「○○です。」と断言してしまうことが多いし

人によってどうも言っていることが違う気がしてならなかった。


だから、誰が担当してくれるかによって、結果が大きく左右するかもしれない、と思った。

そしてとうとう列の一番先頭になって、緊張して待っていると


NEEEEXT!!!


という大きな声が聞こえた。声の聞こえた方向を見てみると、

そこには昨日ありとあらゆる外人からの「自分を優先してくれ」とか

「これだけ体力が弱ってきているんだ」とかの情に訴えかける懇願を、


「みんな状況は同じなんで、無理!」


と、バサバサ斬り落としていた女性が鎮座していた。


ダメだ、あたしも斬られる

5人分のパスポートを握りしめながら、もう既に泣きたくなっていた。