私は昔から、とても飛行機が好きだった。
小さな頃から、飛行機を見ると胸の辺りがどきどきした。
飛行機を見ると美しいと思う。
飛行機の飛び立つその姿も、
着陸してからの逆噴射の音も、「美しい」と思う。
ウィングレットの付いた飛行機は特に芸術だと思う。
ウィングレットとは、飛行機の翼の一番先端部分の
ちょっとだけ上にあがっている部分のことだ。
これによって飛行中の空気抵抗が少なくなり、
燃料の節約につながるため
長距離を飛ぶ国際線の飛行機に良く見られる。
全く違う職種のこの会社で、
そんな飛行機の好きな人がいるとも思えなかったけど
当時は本当に飛行機だけが私の心の拠り所だった。
展望台以外に、もっと飛行機を近くで感じられる場所があるのなら
どうしても知りたいと思った。
そうしたら、来た。
知らない人から、すぐにメールが来た。
社内のNさんという人だった。
小さなガラスのビンに手紙を入れて海に投げたら
それを拾った知らない人から手紙が届いた、そんな気持ちだった。
Nさんは、この会社で働いているけど
実は以前にパイロットとしての訓練を受けていて
今でもライセンスを持っているという飛行機マニアだった。
飛行機にはものすごく詳しくて、
羽田の情報以外に、エンジンの種類だとか、
飛行機そのものについて、いろんなことを教えてくれた。
あれから10年以上経つ。
Nさんとは今でもいい飲み仲間で、
年に1度くらい会って、お互いにキャッチアップをする。
Nさんの年齢をはっきり知らないけど、
娘さんが23歳くらいなので、多分50ちょっとくらいかも?
その辺りは良く分からない。
聞いたかも知れないけど忘れてしまう。
会うと普通にタメ口で会話をするので、
あまりそこには年齢的な壁がないからかも知れない。
会うと大体、お互いにありとあらゆるボケと突っ込みをしあい、
それぞれに自分の好きなお酒を飲んで「じゃ!」と帰っていく。
以前Nさんが相当に酔っ払って半分意識を失いかけていた時、
一緒に飲んでいた、彼の部下であるすーちゃんと一緒に
内緒でNさんの顔に化粧をしたことがあった。
出来れば、そのまま気がつかずに電車に乗って帰って欲しかったので
すーちゃんと二人、その後も何食わぬ顔をし、
帰宅する時間までシラを切り通して「じゃあねー!」と別れた。
イモトみたいな眉に、真っ青のアイシャドーと真っ赤な口紅を塗られて
(しかも平安時代の人みたいに真ん中だけ)
もしかして、変態として鉄道警察のお世話になったりしたら面白いな、
と期待したりしたけど、
後日無事に帰宅したことを知ってちょっとガッカリしたりした。
そんな感じで年に一度くらいの頻度でたまに飲む。
この間、ゆりの花を預かってくれた
Nさんと会うと、いつも思う。
人と人との縁って本当にとても不思議。
同じ学校に行っていたり、同じ職場にいたりして
どれだけ長い時間を過ごすことになっても
決して親しくならずに終わっていく人も沢山いる。
逆にNさんのように、全く接点が無かったはずの所から
何故か知り合いになって親しくなる人もいる。
実際数えるほどしか会っていないのに、
とても心が通じ合っている感覚のある人さえ、いる。
そうやって、ほんの少しの縁がきっかけで親しくなって
私の人生を豊かにしてくれた人達は
考えてみたら、とても多いような気がしてきた。
人生って不思議で面白い。
いいことばかりじゃないけど、でもやっぱり面白いと思う。
飛行機を見ると気持ちが落ち着くので、
嫌なことがあるとよく羽田まで行って、展望台から飛行機を見ていた。
新卒で入った会社は、会社としては好きだったけれど
配属された法務の部署と、当たった上司がどうしても肌に合わなかった。
結局3年半勤めてやめたけど、
(石の上にも3年というので、とりあえず3年は耐えた)
最後の1年は何度も何度も羽田に飛行機を見に行った。
展望台から見る夜景と、次々に着陸する飛行機が美しくて
ぼぉっと空を見ながら、現実逃避をして時間を過ごした。
いつも展望台の同じ場所で飛行機を見ていたけど、
あるとき、この展望台じゃなくて、
もっと他に飛行機を見る場所って無いのかな?と思った。
この羽田の近くに、飛行機好きにはたまらない
秘密の場所があるのなら、どうしても知りたかった。
色々考えた結果、聞いてみることにした。
勤めていた会社には「あげますください」という
社員のための掲示板があった。
ここでは、いらなくなった家具、本、洋服、CDなど
ありとあらゆるものを「あげます」として出したり
逆に必要なものを「ください」として載せることが出来る。
あるお昼休みに、少しドキドキしながら
私は初めて書き込みをしてみた。
お姉さん のいた、
あのお店で一緒にご飯を食べたのがNさんだった。
