「…不思議だと思わないか?」

「何が?」

「や、俺とお前がこうして一緒に酒飲んだり、うちのチビの面倒まで見てもらったりさ。」

「ははは。確かに」

「俺はお前と仲良くなるなんて思ってなかったぞ」

「え~?俺はお前とは仲良くなれるって思ってた」

「うそつけ」

2人は揃って可笑しそうに笑う。


彼とレオの父親、神崎亮(カンザキマコト)は、中学生時代の同級生だった。

この学校の8割の生徒は、亮の通っていた小学校出身者で、彼の学校出身者は少なく、10人もいない程だった。

一年、三年と同じクラスだったが、特に仲が良かったというわけではなかった。

亮は幼い頃からずっと剣道を続けており、部活では部長をしていた。
スポーツだけじゃなく、成績も優秀。
中学生にしては大人びていた為か、周りからの信頼も厚く、同級生からも兄の様に慕われていた。

一方、彼はやはりその頃からマイペースだった。人とは少し違う、独特な感性を持っていたが、逆にそれは彼の魅力の一つとして受け入れられていた。
授業はあまり真面目とは言えなかったが、部活だけは休まず取り組んでいた。
美術のセンスは抜群で、賞なども受賞していた。

共通点と言えば、二人の人気だろう。
間違いなく校内での人気はトップだった。


「お前、授業とか良くサボるし、なんて奴だって思ってたよ。」

「あははは。亮は超が付くほど真面目だったー」

「俺が真面目なんじゃなくて、あれが普通だろ。お前がふざけすぎなんだよ。」

「そうかな?」

「あの頃、こいつはこんなんで大丈夫か?世の中渡っていけんのか?って思ってたけど…
あの時のまま大人になってるお前を見ると、少し羨ましいよ。あ、イヤミじゃなくて、素直にそう思ってんだぞ?」

「じゃあ、誉め言葉として貰っておきます。」

亮は、タバコを手に取ると、合図だけ送り、ベランダに吸いに出た。
「ただいま」

玄関から聞こえて来た声は、地を這う様に低い。身長も高く、筋肉質な体型と、力のありすぎる目。
一見、あまり近寄りたくないと感じる人もいるのではないだろうか。

「パパ~!」

レオはその人を見つけると、弾ける様な笑顔で一目散に駆け寄った。
男性もまた、その迫力のある顔は、クシャクシャと満面の笑顔へと変わり、飛びついてきたレオを力強く抱きしめた。

「レオ、蒼空おじちゃんの言う事聞いて、ちゃんといい子にしてたか~?」

「うん!!ソラ、レオいい子にしてたでしょ!」

抱きしめられたまま、振り返って問いかける。

「今日は中々いい子になってたよな~。
つーか、誰がおじちゃんだって?ったく…。」

腕組みをしながら壁に寄りかかる彼を見ると、レオをひょいっと抱いたまま立ち上がった。

「今日は悪かったな。」

「今日もだろ?
帰ってこれないんじゃなかったのか?」

「同僚が気利かせて、別の奴呼んでくれたんだよ。」

「ま、良かったじゃないか」
「あぁ」

「パパ、手洗ってこないとダメなんだよ~」

「お、そうだよな。我が息子ながら、しっかりしてるな~」

「……………親バカ」

豪快に笑いながら洗面台へと向かっていく後ろ姿を見つめながらつぶやいた。



父親が帰って来て、安心したのか、眠ってしまったレオを抱き上げてベッドに運んだあと、リビングでレオのお菓子を食べている彼の元へ戻った。
「よくそんな甘いの食えるよな」

「食ってみる?」

「…甘いの苦手って知ってんだろ」

「そうでした、そうでした~」

「なぁ」

「ん?」

「お前、最近また痩せたんじゃないか?」

「えー?体重は変わってないと思うけど。」

「そうか?俺はまた飯…」
「食ってるって」

「…言われたくないなら、みんなに心配させんなよな~」

「はいはいはいはい」

「ほら」と、缶ビールを出してきて、軽く乾杯し、飲み始めた。
「ただいま~!」
「ただいま!」

アパートの階段を上がり、部屋の鍵を開け、2人は声を揃えた。


「よーし、レオ、帰ったら最初にする事は?」

「てをあらって、うがいー」

「正解!」

頭をガシガシと撫でると、手早くレインコートを脱がせて背中を押した。
「ソラもあらわないといけないんだよー」

「おー!今行く。」

廊下を走って洗面台まで行くと、端に置いてあった踏み台を取り出し、その上に上がって手洗いうがいを始めた。

「あ~、レオおしいなぁー!手はさ、手首まで洗うんだぞ~。」

「あ、そっかー!」

そう言って素直に洗い直し始めた。


リビングに戻ると、車のおもちゃで遊び出したレオに彼は問いかけた。

「なぁ、レオ何食いたい?」

「えーっとねーケチャップのごはん!!」

「ケチャップごはんかぁ。じゃあ、卵でくるんでオムライスにするか?」

「やった~!オムライスがいいー!」

「了解!んじゃ、もうちょっと待ってろよ?すぐに作ってやるから」

「うん!」


キッチンに入ると、腕まくりをして、早速料理に取りかかった。
流石本業と言ったところか。手際よくものの30分程で、残ったご飯と使いオムライスと、野菜たっぷりのスープを作ってしまった。

「レオ!出来たぞ~!テーブル拭いてくれるか?」

「はーい!」
遊んでいたおもちゃを置くと、台布巾を受け取り、テーブルを拭いた。

子ども様のお皿に盛り付けられたオムライスにはレオの顔がケチャップで描かれていた。

「ソラ、すごーい!!」

「気に入ったかぁ?」

「うん!!」

目を輝かせて自分のオムライスを見つめる姿を嬉しそうに眺め、

「じゃ、食うか。はい、手を合わせて?」

「「いただきまーす」」


食事中は今日保育園であったことを、嬉しそうに話すレオ。それをウンウンと聞く彼もまた、嬉しそうだった。


食事も終わり、片付けした後に、2人は一緒にお風呂に入っていた。
レオは湯船の中で船の形をしたおもちゃを泳がせて遊んでいる。

「レオー」

「なーにー?」

「パパさ、帰って来るの朝になっちゃうんだって。」

「えー」

やはり寂しそうな顔で下を向いてる。
そんなレオの頭を優しく撫でながら、

「だからさ、風呂出て髪も乾かしたら、パパに電話するか?」

「いいの?」

「もちろん!レオの声を聞かないとパパの方が泣いちゃうからな~」

「ソラ!早く出ようよ!」
「ダーメ。あと50数えたらな?」

「うん!いーち、にぃーいさぁーん…」


きちんと髪まで乾かすと、はやる気持ちを抑えられない様子のレオはソラの洋服の裾を握りしめながら、「早く~」と繰り返す。
ソラが携帯を取り出そうとした時、玄関の扉が開かれた。