柔らかな風にのって水色の空をわたる鱗雲に、

どこまでも広がる文化を重ねて。

 

アジアの東からヨーロッパの西へ。ポルトガルの首都リスボンでみた天気予報は、いつも沢山の小さな矢印が鰯のように群をなして動いていて、さながら風予報の様相。その国の人たちは、昔から風の向きが気になっているようです。ポルトガルは私も暮らす東京都と同じくらい(約1千万人強)の人口で、大西洋に面したユーラシア大陸の西端に位置する海洋国家。15世紀中頃からの大航海時代には遥かなる海の向こうに可能性を見いだし、ヨーロッパからアフリカ南岸経由のインド航路を発見したとされる探検家ヴァスコ・ダ・ガマをはじめ多くのポルトガル人たちが船に帆を揚げて海をわたり、やがて種子島にも到着。南蛮貿易として異国の様々な物や文化を日本に運んできました。その1つにワインがありますが、初めて葡萄酒を飲んだ日本人は織田信長だったとか。個人的には、数年前に作品展で出向いた長崎・上五島で当時から受け継がれた文化を色濃く感じたことや、生まれ故郷の山口県にはザビエル記念聖堂があって、瀬戸内の徳山から県庁に絵(小学生の頃は点描画を描いていたのです)の表彰状を授与されに母といった時に立寄ったこと、大学時代を過ごした江古田の「リスボン」という名の風変わりな喫茶店で学友と語り合ったこと等が思い出され、ご縁も感じます。最近では、歌手のマドンナがリスボンに移住すると話題になっていましたね。「テルマエ・ロマエ」の作者ヤマザキマリさんもリスボンに住んでおられたようです。

そんなリスボンで見あげた空は、アズゥ(AZUL)と呼ばれるカンと冴えた青色。それはモロッコで見た空と同じで宇宙まで透けて見えているような日本ではあまりお目にかかれない濃くて深いブルー。また夜空がくっきり見えるあまり星座のように点線で星々が繋がっているようにも感じられ、昔の人の知恵や勇気に想いを馳せて天体ショーを楽しみました。リスボン滞在中は晴天に恵まれましたが旅の終わりには、鰯雲がリスボンそして経由地のロンドン上空にふんわり現れて。鰯雲が浮かぶ空はいつも優しく柔らかな淡い水色をしていたことに気づきました。今はもう秋♪なんですね。

 

あ、さてさて。またもイントロが長くなってしまいました(笑)。

 

能面をモチーフとした作品を手がけ複数の国際賞を受賞されるグラフィックデザイナー藤代範雄さん展覧会「O MUNDO DE NORIO FUJISHIRO」(期間:9/28-11/17/場所:リスボン・オリエント美術館)に、オートバイをモチーフに制作する下島由美さんと共にゲストアーティストとして参画。星素子は漢字をもちいた言葉アートの作品展示とワークショップ「KOINOBORI×MOTOKOTOBA」のメイン講師をおこなってきました。

 

お世話になりました同行のおふたり、在ポルトガル日本大使館、オリエント美術館、鑑賞者・ワークショップ参加者の皆さま、リスボンでふれあった人たちに、心からありがとう!Obrigado!Obrigada!

日本語のありがとうとポルトガル語のオブリガードって発音が似ていますね。リスボンでは会話をしていて日本人とわかると何度か「アリガト」と言われ「オブリガ〜アリガト」なんて返してみたり。ポルトガルで出会えた人たちは、皆さん朗らかで親切。そしてエレガントでした。

 

写真「LUCKY SHARING MOTOKOTOBA」Motoko Hoshi 

星素子のオリジナル麻キャンバス作品をプリントした旧作

Canon Desital Marketing Japan出力協力

「タテ・ヨコ・ナナメ…漢字を、感じて。」

展覧会オープニングで来場された人たちの前で作品を解説した後「あなたの作品にはストーリーがある」と感動した様子で駆け寄って感想を伝えてくれた東洋系の女性、在ポルトガル日本大使館の東博史大使と記念撮影(写真下)。手に持っているのは翌日のワークショップの告知をかねてリスボンで感じた事象を滞在中に言葉アート素ことばの連詩で表した折紙×筆文字の鯉のぼり。

 

写真 MUSEU ORIENTE リスボン・オリエント美術館 

 

右下写真〈会場キャプション翻訳〉--本展のゲストアーティストについて--

このたび、言葉アーティストの星素子とデザイナーの下島由美をゲストアーティストとして招きます。コピーライターとして長年活動してきた星素子は言葉を用いたアート活動を国内外でおこなっており、本展では漢字を用いたワークショップを開催します。下島由美は藤代範雄の一番弟子として栃木県における地域活性化のためのアート・デザイン活動を行ってきました。二人は2013 年ベトナム・ホーチミン美術大学での「藤代範雄 JAPAN POSTER 展」にも展示およびゲストアーティストとして参加した実績があり、星素子は友好的なワークショップで参加者たちを楽しませました。リスボンでの本展覧会開催にあたり、地域および日本の魅力を世界へ伝えていくという共通の理念を持つアーティストとして、二人にゲスト参加を呼びかけました。二人の参加により、アートを通じた国際的なコミュニケーションがよりいっそう豊かになることを願っています。オリエント美術館

 

テージョ川のほど近く再開発がすすむウォーターフロントエリアにあるオリエント美術館。川沿いの港にはカフェがあり珈琲を飲んでいるとセグウェーや自転車に乗る人たちがすいすい通っていきました。青空を映すガラス張りのモダンなエントランスとクラシカルな意匠をあわせもつオリエント美術館では、東洋の歴史的な所蔵品が常設で鑑賞できます。特に日本、中国、東ティモールの所蔵品が見応えあり。企画展も盛んで、藤代さんの能面ポスターにあわせて所蔵品の日本の能面を展示するなどオリエント美術館ならではの創意と審美眼が細部まで宿る空間演出も見事。OPではポルトガル在住の版画家MAMI HIGUCHIさんや日本からの留学生の方々とも出会えました。

 

写真 「KOINOBORI×MOTOKOTOBA」WORKSHOP_1

ワークショップでお世話になった皆さんと。大使館SHIBATAさんに尽力いただき企画をすすめオリエント美術館の方たちがすてきな「場」を提供してくれました。私が手にしている企画資料の最後には「Let‘s deepen mutual understanding and nurture friendship」と書いてあります。現地のMTGで主旨を話すと「BEAUTIFUL」と美術館の方。言葉と美術に携わる者として、そのタイミングで「美」という言葉が飛びだすと嬉しくなります。それは目には見えないものであり、共感しあえたことでなおさらに。 Obrigada☆

 

写真 「KOINOBORI×MOTOKOTOBA」WORKSHOP_2

漢字をもちいた素ことばワークショップは場所が変わってもいつも通り「象形文字」のお話から。山という漢字の起源に子供たちも興味津々のよう。「日本のイメージは?」と尋ねると、まっさきに飛びだしたのは「KARATE!」。現地のTVCMでも空手の道着が映っていたり、空手はサッカーや車輪競技と共に人気のようです。左上のWS作品は、空手と運動の融合!素ことば詩型で組み合わせて見ると何とも壮大なイメージです。漢字には小さくポルトガル語も添えられています。思わず感嘆したのは、右上「森/温/(裏面は歩/雨)」のWS作品。夏までは晴れた日が多く、秋になると長い雨期が訪れるというポルトガル。それを制作したのは日本語や日本文化を勉強しているポルトガルの女性で「あたたかな雨にうたれながら散歩をするのが好きなの」と理由を伝えてくれました。季節や地元の自然を感じて日常を楽しむ感受性も、立体で見た時のことを考慮した配置もすてきです。他にも伝統を感じさせる漢字や「心の宝もの」を表した漢字、日ごろ大切にしている関係性が表された漢字(ご夫婦での参加も)、友情の表現、海や波といった自然や季語も登場。漢字を通してイマジネーションが広がって、ささやかながらでも相互理解や友好を深めることができていたらいいな…☆

 

写真 「KOINOBORI×MOTOKOTOBA」WORKSHOP_3

どの参加者のWS作品も素晴らしいものでしたが、そこに現れた個性や地域性はもとより特に今回は「普段の生活」を愛でる人との普遍的な共感を深く感じました。動物(犬や猫やなぜか麒麟も)の漢字も人気で、リスボンでは犬の散歩をしている人たちをよく見かけました。どこで見ても心あたたまる光景です。もちろん思い出すのは、愛犬の助手!ジョシュ!JOSH!それから、日本でのWSでも海外の方々に感じたことですが、ポルトガルの人も自分の名前を漢字で表すことにとても関心があるようでした。

心に残る楽しいワークショップをありがとうございました!

 

 

 

 

 

PS:いつかリスボンに誘われるひとへ。

旅の小窓的☆お土産MEMO

 

 

食:リスボンのどこで食べても美味。ポルトガルの国民的お菓子「エッグタルト」。

むかし修道女が着ていた衣服を洗濯する際、糊付けに卵白を使っていて「黄身が余って勿体ない」と卵黄でエッグタルトをつくるようになったことが、この地で親しまれている由来だとか。ホテルの朝食や地元の人に親しまれる街角のカフェなどいたるところで賞味できます。ちなみに個人的に最も美味しかったリスボンの食は、大使館SANOさんご夫妻におもてなしいただいた新鮮な「鰯」のお刺身。リスボン空港にはサーディンランドといった風情の煌びやかな鰯の缶詰屋さんもあり、お土産に人気のようでした。

▶エッグタルト有名店「パティスデベレン」

 

地:歴史とアートが一挙に楽しめる、テージョ川畔の「ベレン地区」。

リスボンは治安がよく歩いて楽しめるのが大きな魅力(路面電車も人気)。見晴らしのよい高台の公園やベロニモス修道院、ベレンの塔など観光スポットが多く、各地方も特色豊かで素晴らしいと聴きます。私が滞在したリスボンのお薦めは、ベレン地区にある大航海時代に活躍した人たちが刻まれた「発見のモニュメント」(巨大な石館の上まで登れます)とその界隈。川沿いのカフェギャラリー「Espaço Espelho d’Água」では、「私の筆はコレよ♡」と糸を束ねたムチのような筆で作品をつくるブラジルのアーティストVera Martinsさんとの出会いも。楽しい参加型展示でした。

大通り向かいにある「ベラルド近現代美術館」アート好きにはたまらない場所。近現代のアートの魅力と流れが手にとるようにわかります。併設の芝生カフェは休憩に◎。

 

陶:美しい教会ごと伝統のタイル作品を鑑賞できる「アズレージョ美術館」。

リスボンの街では15世紀から生産される「アズレージョ」と呼ばれる伝統的なタイルが景観に溶け込み目を楽しませてくれます。アズレージョ美術館は古い教会をリノベーションしてつくられたタイルの美術館。回廊を歩きながらその歴史や作品が館の古いタイル装飾と共に堪能できます。

ちょうど日本人タイル作家ISHII HARUさんの作品展中でした。

 

層:15万点の常設所蔵品から人類の営みを学ぶ「大英博物館」

リスボンへは直行便がないためロンドン経由に。ロンドンのアートでは「テイトモダン」がお気に入りなのですが、今回は「聖☆おにいさん」を目撃しに大英博物館へ。現在は手塚治氏の漫画「三つ目がとおる」が埴輪や茶室、浮世絵、掛軸、甲冑、着物や陶器などと展示されていました。日本にまつわるキュレーションに注目です。結局、終日プラス翌日の出国ぎりぎりまで大英博物館に居続けました。個人的に印象的だったのは机の傍らにミニチュアを置いていた「ロゼッタ・ストーン」の実物に触れたこと。そして思いがけず「Relating to animals」と書かれたブースで、大昔に極寒の地で着られていた2枚の服に魅せられて長い時間見入っていました。15万点といわれる膨大な常設展示のなかには、きっと誰もが個人的に心をつかまれて動けなくなるような感動の品との出会いがあるのではないかと思います。少し前には「北斎」が企画展示されていたよう。

常設展示は無料で公開されているのですから大英博物館…やはり凄いです。

ちなみに日本にも無料で公開されるユニークなミュージアム「インターメディアテク」があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

すべてに☆感謝